君の中へ堕ちてゆく

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俺は必死で考えて考えて、考え抜いた。

だけど答えは見つからなくて。

珠姫を助ける方法が、思いつかなくて。


殺すしかねェのかって、ばかな考えはすぐに捨てた。

俺に、珠姫は殺せねェし、殺したくなんてねェ。


たった一人の家族を失う悲しみを、俺は知っている。



「珠姫!頼むから、もうやめて下せェ!珠姫っ!」



俺の声は、珠姫に届かない。

こんなに哀しいことがあるのかと思った。

何も出来ねェ自分が情けねェ、情けなさ過ぎる。


このまま珠姫を助けることが出来なかったら、俺ァどうすればいいんでさァ。

珠姫の姉さんに、向ける顔がねェ。



「いつの日か、二人で描いた夢を
覚えていますか?」

「歌……?珠姫の、姉さんの声……?」



為す術もなく、息つく暇もなく、ただただ珠姫と剣を交えていたときだった。

声が、歌声が聴こえてきた。

珠姫とよく似た、だけど全く違う、きれいな歌声が。


少しだけ、珠姫の動きが鈍ったような感じがした。



「いつの日か二人で描いた夢を
覚えていますか?
あのときは沢山悩んで
沢山笑ったね
君の笑顔 輝いていた」

『うた……。あたしの、うた、』

「珠姫!」



珠姫の声が、聞こえた。

操られたときのあの声じゃなくて、本来の珠姫の声。

俺の大好きな、珠姫の声。



「無情なくらい
夢は儚く消えたけど
描いたときの思いは
本物だから
共に行こう 諦めないで」

『そう、ご……?』

「俺でさァ!珠姫!」



目が、変わった。

操られている、生気の抜けたような目じゃなくて、ちゃんと珠姫の目に戻っていた。


だけど……体は、言うことを聞かないみたいで。



『総悟、お願い、あたしを斬って』

「珠姫……!?」

『正気でおれるんはたぶん、お姉ちゃんが歌っててくれてる間だけ』

「だけど!」



珠姫の姉さんは、歌い続ける。

珠姫は、話し続ける。


俺に珠姫が斬れる訳がねェ。

確かにあのとき、俺は珠姫に剣を向けて、剣を突き立てた。

けどあれは俺であって俺じゃねェ。



『やからお願い、総悟。あたしを斬って。起き上がれんくなるくらい斬って。命が危なくなるくらい』

「そんなこと出来るわけねェだろ!俺に珠姫は、」

『このままやったらあたし、総悟殺してまう。それもザーマス星人なんかに操られたまま。そんなん、絶対に嫌や。お願い、総悟』

「珠姫……」



俺はただ、何も出来ぬまま。




珠姫の姉さんのおかげで、珠姫が正気に戻った。

だけどまだ操られたまま――俺は珠姫を、斬らなきゃいけねェんですかィ……?






(2009.11.15)


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