believe-心-

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それは大江戸マートからの帰り道のこと。


その日山崎が、密偵の仕事で屯所にいなかった。

だから、自分でマヨネーズを買いに行った。

いつもならこんなこと、山崎にやらせてるんだが。


何故か少し遠回りして帰ろうと思い、路地に入った。

路地に入った瞬間、血の臭いが辺り一面に広がっていた。


下を見れば、数人の死体。

顔を上げると、そこにいたのは一人の女。

両手には拳銃。

着ている服や顔には血。

瞳孔はほぼ全開。


俺は死体を避けて、そいつに近づく。

そいつは、警戒はしたが、両手に持っている拳銃は構えない。



「お前、いったい……」

『誰だ、お前』



女とは思えないくらい低い声が、そいつの口から発せられる。

ほぼ全開の瞳孔を見ていると、心配になってくる。

死ぬんじゃねェかと。


……見ず知らずの女なのにも、関わらず。



「……土方十四郎だ。お前は?」

『真選組鬼の副長と呼ばれる男か……俺ァ飛酉灯だ』



相変わらず飛酉灯と名乗った女は、俺を警戒したままだ。

野生の本能、という感じではない。



「これはお前が殺(や)ったのか?」



地面に倒れている死体を見回す。

どの死体も、脳天や心臓に一発ずつ撃ち込まれている。



『ああ。言っとくが、これは正当防衛だからな』



俺を睨みつけているのか、普段からそんな目をしているのか。

睨みつけるような、そんな目で俺を見ている。


コイツには、なにかを感じる。

昔、なにかあって、人格が変わってしまったような何かが。



「……真選組(ウチ)に、来ねェか?」

『何故だ?』

「なんでだろうなァ。お前に真選組隊士になって欲しいんだよ」

『……飯はあるか?』

「ああ、ある」



少しだけ、そいつの瞳孔が閉じた。

さきほどの心配は、どうやら無駄だったようだ。



『……まァいいだろう。ただし、俺ァお前らを信用しはしねェ』

「ああ、いいさ」



思いもしない返答に驚いた。

まさか、本当に隊士になってくれるとは。


だが、入隊試験がある。

銃を持つコイツに、剣を扱えるのだろうか?


疑問は置いておいて、俺らは屯所に向かう。

幸い、コイツがいた路地を抜けると、人通りが少ない道に出る。

まぁ屯所前になれば人通りは増えるんだが。



「なんて呼べばいい?」

『好きにしろ』



今度は、あまりにも早く、適当な返事に驚いた。

いったい、コイツはなんなんだ?



「近藤さん」



屯所に入ると、何処かへ行こうとしていたらしい。

外を歩いていた近藤さんを見つけ、呼び止める。



「コイツの入隊試験、やってくれねーか?相手はそうだな……」

「俺がやりまさァ」



どこからともなく、総悟が現れる。

また何処か、木の上とかで仕事をサボっていたんだ。



「オイ灯、相手はコイツでいいか?」

『誰でもいい。何をすればいい?』



どうでもよさそうな声を出す、灯。



「おーい、トシー、総悟ー、俺まだ許可出してないんだけどー!」

「いいだろ?近藤さん」

「まぁ、いいが」



許可出してないんだけど、と言ったわりに、あっさりと承諾する。

もともとこんな人だ、近藤さんとは。



「さっそくやれるか?真剣で総悟と勝負するんだ」

『大丈夫だ。剣をくれ』

「おらよ」



俺は自分の剣を灯に渡す。

灯は刀身を鞘から抜くと、鞘を俺に投げてよこす。


気づけば、周りには人だかり。

隊士がぞろぞろと集まってきた。



「始めッ!」



隊士たちの中から山崎を探し出し、見つけた。

密偵の仕事から帰ってきていたみたいだ。

その山崎に合図をさせる。



どうもアイツは、何を考えているのかわからねェ。

ただ、アイツは過去に何かがあったハズだ。


なにもなかったなら、普通こんなにはならないだろう。

心に傷を負ってるとか、過去は辛いことばかりだったとか、そういう類(たぐい)だ。




アイツの心は……アイツはきっと。

一人で、何かを抱え込んでるに違いない。






(2009.07.24)


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