believe-心-

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あれから、山崎に灯の調査を頼んでから、一週間が過ぎようとしていた。

その日も、いつもと変わらない一日を過ごした。


夜になると、山崎が部屋に来た。

きっと、灯の調査が終わったのだろう。



「これで全部なのか?」

「外に出回ってる情報は、これで全部です」



10枚以上はあるだろう書類に目を通す。

一枚一枚、読み残しがないように、丁寧に慎重に。


一枚目には、灯の写真が載っていた。

写真の中の灯は、笑っていた。

瞳孔も開いていない、“女”の灯だった。



「雛乃、咲菜……」



俺は呟いた。

灯が、部屋の近くにいたことにも気づかずに。


雛乃咲菜と言えば、灯が一度口にしていたことがある。

“雛乃咲菜と言う名を捨てなければ”

と、灯は言っていた。



「灯さんの本名が、雛乃咲菜なんだそうです」



30分くらいかけて、全ての資料に目を通した。


これで、ほとんどのことが繋がった。

万事屋や総悟が言っていた“本当の名前の最初の一文字”の文字。

逃げるようにして万事屋を連れていった理由。

雛乃咲菜を捨てなければ、の意味。



「それから、」



不意に山崎が口を開いた。

俺は資料から顔を上げて、山崎を見る。



「灯さんの、捜索願いが出されています」

「捜索願い?」

「灯さんの家族が、灯さんを捜してるみたいです」



まだ真選組には届いていませんが。

と、山崎は言葉を紡ぐ。


まだ届いていないということは、いつか届くのだろうか。

もしそうなったら、俺はどうすればいい?


少しの間話をすると、山崎は部屋を出ていった。

部屋を出る前に、このことは誰にも言うなと言っておいた。

灯自身が、過去を隠しているのだから。



「あれ、灯さんじゃん」



部屋の外から、山崎の声が聞こえた。



「もしかして、さっきからずっといたの?」

『……今来たところだ』

「そっか」

『俺に聞かれちゃまずいことでも、話してたのかよ?』

「いや、そういう訳じゃないんだけど」



灯の声も聞こえた。


俺は、急いで資料を片付けた。

灯と山崎が会話をしている間に。



『土方十四郎』



会話が聞こえなくなって、一つの足音が遠ざかっていった。

そうしたら、聞こえてきた灯の声。



『これを渡せと言われた。近藤勲からだ』

「あぁ、悪ィな」



灯の手にしていた封筒を受け取る。

中には紙が一枚入ってるってところだろう。



「灯」



部屋を出ようとする灯を呼び止める。



『何の用だ』



振り返った灯は、酷く迷惑そうな顔をしていた。

けれど、声は違った。

声は、迷惑そうじゃなかった。



「……いや、何でもねェ」



何を言おうとしたのか、わからなくなった。

灯の過去に、触れようとしたのだろうか。


俺の言葉に、灯は何も答えず部屋を出ていった。




君の過去を公にするなんて、今はまだ出来ねェ。

隠し続けるしかねェんだ。






(2009.06.28)


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