believe-心-

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『まず、謝る。すまなかった』



咲菜は男口調のときの声で切り出した。


何のことか全く伝わらない隊士たちは、またざわめく。

そんな中咲菜は続けた。

少しだけ躊躇っていたような気がした。



『俺は今まで偽の名前(フルネーム)だと名乗ってきた。が、』



言葉を区切り、目を伏せた。

次に目を開けたときには瞳孔は開いていなくて、“本当の”咲菜がそこにいた。


――雛乃咲菜。


偽の名前(フルネーム)として身を隠さなければいけなかった。



『本当は、雛乃咲菜という名です。話せば長くなりますが、諸事情により正体を隠さなければいけませんでした。今まで嘘をついてきたこと、すみませんでした』



雛乃咲菜の声で、咲菜は言い、頭を下げた。


隊士たちはしばらくざわめいえから、口々に咲菜を認めだした。

それに頭を上げて隊士たちを見た咲菜の目には、少しの涙。

だけど笑っていた――今までに見たことのない嬉しそうな顔で。


その後しばらくして、俺は咲菜を屯所の外へ誘い出した。



『どうしたんですか、副長。わざわざこんなところまで』

「……話がある」

『話?解雇とかですか?』

「解雇って、咲菜お前ェ」



思わず噴き出すと、咲菜は首を傾げていた。

そんな咲菜の手首を掴んで引き寄せる。

驚いた顔をしていたけれど特に何も言わずに体を預けてくれた。


腕の中に咲菜がいる。

その事実を噛み締めながら言葉を探した。



「咲菜」

『はい』

「、好きだ」

『……ふく、ちょう、……?』



咲菜を離して、両方の二の腕を掴んで言った。

真っ直ぐ目を見つめると、咲菜も同じようにする。


何となく視線を外してはいけないような気がした。

だから、そのまま……咲菜と目を合わせたまま言葉を紡ぐ。



「その……何だ、上手いことは、言えねェが……」

『……恋人ですね!』

「なっ……!?」

『あれ、違いますか?付き合ってくれ、って、副長言いたいんでしょう?』



隊士たちに見せたものとは違う、愛しいものを見るような柔らかな笑顔で言われた。


目を見開いて驚くと咲菜に不思議そうな顔をされた。


一気に顔が熱くなったように感じて、勢いよく咲菜を抱きしめた。

わあ、と間の抜けた声が聞こえた。


背中に腕が回り、咲菜がぎゅっと抱きついてくる。

どうしたんだと訊く前に、咲菜は話し出した。



『こうやって、誰か大好きな人の温もりに触れられるって、とても幸せなことなんですね』

「あァ……そうだな」

『心や休まる場所がある。これ程、幸せなことはありません』

「咲菜、?」



咲菜が離れて俺を見上げる。


しばらく見つめ合ってから咲菜は微笑んだ。

瞳の奥に哀しみを湛えて。


ゆっくりと茶色混じりのきれいな黒髪を梳かしつつ頭を撫でてやると、目を伏せる咲菜。



『私は温もりのない冷たい世界を生きてきました。銀時や晋助、小太郎たちと過ごしたのは戦いの真っ最中で……確かに温かい人たちだったけれど、当時の私にその温もりを感じている余裕はありませんでした』

「咲菜……」



す、と頭が上がってまた目が合う。

気づけば咲菜の顔がすぐ目の前にあって、唇が触れた。

押し付けるようにキスをされて、そっと咲菜の方から離れる。

そのままじっと見つめられたから、目を逸らしたい気持ちを押さえて咲菜を見据えた。


躊躇いがちに言葉が発せられた。



『だから私は、今、とっても――』




満面の笑顔で言う咲菜を抱きしめて、俺もそうだと伝える。

全て偽りのないもの……その言葉も、想いも、そして自分(てめェ)も。










―― 完 ――







(2012.02.07)


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