この詩は誰のもとへ
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不意にチャイムが鳴った。
もう10分が経ったのか、と少し驚いてしまった。
『チャイム、鳴っちゃったね』
「どうするんだ?」
『サボっちゃえばいいんじゃない?』
曖昧に七海は言った。
屋上よりもう一つ高いところにそそくさのぼってしまう。
俺はメモ帳を持っているままだというのもあるし、七海の後に続いて、屋上よりもう一つ高いところにのぼった。
「そういや七海」
『ん?』
「七海の詩、恋愛のやつないよな」
『そーだね』
七海は空を見上げる。
今日は雲があるけど、雲があるから真っ青なときとは違って、白と蒼のバランスがよくてこれはこれでいい感じだ。
「なんで書かねえんだ?恋愛の詩」
『恋、したことないから』
恋をしたことがない、か。
じゃあ今も、誰かを好きになったりしてねえってことだよな。
ということは、今はまだ俺の方を向いてくれるわけねえよな……。
『恋次』
「なんだ?」
『誰かを好きになれば、恋愛の詩って書けるかな』
「好きになってもなんなくても、俺は書けると思うぜ。七海なら絶対」
『そっか』
「書いてみろよ」
『……うん、ありがと』
空を見上げていた七海が俺の方を見る。
ありがとうと言って、不器用に笑った。
『好き、大好き……愛してる……嫌い、大嫌い……』
また空を見上げて、七海は一人呟いた。
まるで、失恋したあとのように。
七海の詩には、人を惹きつける魅力があると思う。
読んだら誰もが虜になる……とは言い切れないけれど。
でも、虜になる人はいるんじゃねェかと思う。
そのうちの一人は俺。
恋愛の詩が書けたら、一番に俺に見せてくれるといいな。
なんて思いながら、七海の隣に座っていた。
その反面、やっぱ一番に見せるのは一護だろうなあとも思った。
だって七海と一護は、よく一緒にいるから。
書いてみろよ、って。
七海に詩を勧められたから、七海に恋愛の詩を勧めてみた。