この詩は誰のもとへ

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大丈夫だと七海は言ったけど、七海は座り込んだままだし、なかなか顔を上げねえ。

本当は大丈夫じゃねえのかと、心配になっちまう。



「七海」

『な、に……?』



本当に心配になったから、名前を呼んでみた……返事はした。

けど顔は上げようとしねえ。



「七海」

『なに……?』



もう一度名前を呼んでみた。

でも、やっぱり返事をするだけで顔は上げねえ。

マジで心配になって俺は、七海の顎を軽く持って顔を上げてみた。


目を合わせた七海は、顔が、真っ赤だった。



「七海」

『は、い』

「体育祭、出なくていいからよ、その……見に来て、くれねえか?」

『体育祭に……?』



……思わず言っちまった。

俺の本音を。


このことは、七海には言わずにいようと決めていたのに。



『……見に行くだけで、いいの?』

「おう」

『わかった。いい、よ』

「マジでか?サンキュ」



七海なら断るだろうと思っていた。

だから、意外な返事に俺は嬉しくなった。



『恋、次……?』

「あ、悪ィ」



嬉しくなってつい、七海を抱きしめちまった。

だけど七海の言葉で、すぐに俺は七海を離した。


と同時にチャイムが鳴って、六限目の授業の終了を告げた。

俺と七海は教室の扉を開けて教室の外に出た。

屋上へ向かう。


もちろん教室の鍵は、教室に置いてきた。

教室は開きっぱなしだ。



『恋次』

「なんだ?」

『私、恋の詩を沢山、沢山書けそうな気がする』

「お、よかったじゃねえか」



俺が七海の方を見ると、七海も俺の方を見た。

互いに笑った。

七海の笑顔は、今までで一番輝いていたような気がする。

とは言っても、そんなに沢山七海の笑顔を見たことがあるわけじゃねえんだけど。




意外な答えと君の笑顔。

自分で訊いたのに、まさかって思った。

それがあったから、残っている今日を楽しく過ごせそうだ。






(2009.07.19)


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