「茜」
『ふぇぇ?!』
デスクの前で、特に用とかなくてボーっとしてた。
そしたら、不意に名前で呼ばれた。
あたしは吃驚して変な声を出す。
その上自分の足にからまって、思いっきり後ろにこけた。
「ぷっ……大丈夫かァ?」
必死に笑いを堪えながらも、銀時は心配してくれた。
銀時、って、めっちゃ違和感ある。
『いたた……大丈夫、やと思う』
「で、まだなんか言いたいことでもあんのか?」
『いや、えっと……いっつも、何して過ごしてる、ん?』
咄嗟に質問を考えて、あたしは訊く。
訊きたいこととか、言いたいこととかなかったから。
ちょっと変になってもた感じやけど、まぁ大丈夫やろ。
「フツーにゴロゴロしてるだけだな」
銀時の目を見てみた。
そしたら、死んだ魚みたいな目やった。
初めて見たときの目とは、違う。
「たまに買いもんに出かけたり、ジャンプ買いに行ったり」
目が合った。
死んだ魚みたいな目は、変わらへん。
依頼があれば、その依頼を片づけにいったりもすっけど。
と、あたしの目から逸らさずに付け加えた。
『そっか』
あたしはソファに座った。
何もすることがなくて、ただボーっとしてるだけ。
向かいのソファには神楽ちゃんが寝転んでる。
「茜ちゃん」
『はい』
「買い物行くけど、一緒に行く?」
「行くアル!」
あたしが答えるより先に、神楽ちゃんが答えた。
訊かれてるのは、あたしやけど。
買い物、か……。どうしよう。
あんまり行きたないけど断るのも、なぁ……。
なんか新八くんに悪いし。でも……。
『……ごめん。今、そんな気分じゃないかな』
一回目を伏せてから言う。
また今度、誘って。
そう、新八くんの目を見て続けた。
「そっか。じゃ、神楽ちゃん行こうか」
そう言って新八くんと神楽ちゃんは、買い物に出かけていった。
また誘うね、と、言ってくれた。
なんでか、胸がきゅぅって締め付けられた。
「外、嫌いなのか?」
『外は好きやけど、人と関わるの嫌やから……』
銀時に問いかけられて、あたしは答える。
ほら、またこうやってさ、外に行くのを拒む。
外、好きなんやけどなぁ……。
けどやっぱり外に出ると、何かしら人と関わることになる。
あんなことさえなければ、あんな人らさえおらへんかったら。
あたしは、こんな風にならんくてもよかったのに。
人と関わらんようにして、人を避けて……。
孤独にならんでも、よかったのに。
外で思いっきり遊びたいし体動かしたい。
けど、人と関わりを持つのは嫌や。
人が嫌い。人が怖い。
――人は、冷たい。
人は、人と違うものを持つ人を、ヨゴレモノ扱いする。
どうして人は人を傷つけてさ、ヨゴレモノ扱いしてさ、切り捨てるんやろう……。
みんな同じ“人間”なのに。
みんな同じように生きてるのに。