君の中へ堕ちてゆく

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さっき出会ったばかりの珠姫を連れて歩く。

目的地は、近藤さんがいるだろう部屋。



「近藤さん、いやすか?」

「おぉ、どうしたんだ?総悟」



ふすまを開けると近藤さんはいて、パソコンと向き合っていた。

俺の問いかけに、振り返らずに答える近藤さん。


近藤さんがパソコンで何をしているかは、大体想像がつく。



「コイツが入隊したいって言ってんですけどねィ、どうしやすか?」



コイツ?と近藤さんは言い、振り向いた。

手はまだ、マウスの上。



「ああ、さっきの子か。女中じゃダメなのか?」

『ヤです。っていうか、家事なんてろくに出来ませんよ?あたし』



家事が出来ない、とサラッと言ってのける珠姫。

女中は嫌だと、声が言っている。



「まぁ、いいだろう。入隊試験で実力を見てからだな」

「じゃあ、表へ出て待ってて下せェ。土方さんと山崎呼んできまさァ」

『らじゃー』



珠姫は返事をすると、表へ向かった。


俺は土方さんのいる部屋へ向かう。

途中、一人で表へ出れただろうか、なんて考えながら。



「土方さん、、崎呼んで表へ出てきて下せェ」



土方さんのいる部屋の前に着くと、ふすまも開けずに俺は言う。

それだけ言うと、土方さんが何か言ってたみてェだが、気にせず表へ出た。


どうせ土方さんのことだ、ろくでもねェことしか言ってねェや。



『あ、来た来た。沖田くん、入隊試験って、どんなことすればいいん?』



表に出ると、珠姫が駆け寄ってくる。

何かと思えば、入隊試験に関する疑問をぶつけてきた。



「真剣で勝負するんでさァ」

『誰と?』



真剣、という言葉に、驚きを見せない珠姫。


一般人ならそれなりに驚くはずだ。

まぁ中には、驚かねェ奴もいるんだろうけど。



「俺が相手になりやしょうか?それとも。他のがいいですかィ?」

『強い人。真選組の中で、一番強い人』



珠姫は俺を否定せず、他の人も否定しなかった。


真選組で一番強い人。

それはたぶん、俺だと思う。

真選組一の剣の使い手、と呼ばれているから。


自惚れではない。



「じゃ、俺ですねィ。マジで斬っちゃいけねーですぜ?」

『わかってるよ。斬ったら犯罪になりかねへんし』



笑みを零す珠姫。

一瞬、可愛いと思ったのは、俺だけの秘密だ。


珠姫と話していると、土方さんが来た。

後ろには山崎。


土方さんは相変わらず瞳孔が開き気味だ。

山崎は、また仕事をサボってミントンをしていたらしい。

右手にミントンのラケットを持っている。



「なんなんですか、沖田隊長。いきなり呼び出したりして」



ため息混じりに山崎が文句を言う。

またパシリですか?と、付け加えて。



「俺ァパシリには土方さんを使いまさァ」



チラッと土方さんを見る。

相変わらず、瞳孔が開き気味だ。



「合図を頼もうと思いやしてねェ」



山崎が何かを言う前に、俺は言葉を紡いだ。

特に何かを言いたそうだとかはなかった。



「合図……ですか」



パシリには土方さんを使う、というところには、山崎は突っ込んでこなかった。

俺にとっちゃ日常茶飯事だから、突っ込むところなんてねェけど。



「土方さん、刀貸して下せェ」



山崎の頭の上のハテナマークを無視して、土方さんに話しかけると、あァ?なんでだよ?なんて言いながらも、土方さんは刀を投げてよこす。

俺はそれを右手で受け取り、珠姫に投げた。

珠姫も俺と同じように右手で受け取る。


俺が刀身を鞘から抜くと、珠姫も同じように刀身を鞘から抜く。


俺はすぐに刀を構えた。

珠姫は、土方さんに鞘を投げ、少し刀身を観察してから構えた。



「始め!」



それを見計らったのか、山崎が合図を出す。

合図をしろ、としか言ってねーのに、なんて、俺は山崎に少しだけ関心した。


入隊試験だなんて、土方さんにも山崎にも、一言も言ってねェ。


――キィィィィィイン


俺が考えているうちにも、珠姫が飛びかかってきた。

剣と剣が交わって、それ独特の鉄の音が響いた。


……早い。

コイツまさか元攘夷志士か……?

でもそれにしちゃ、血の臭いがしねェ。

長い間、何年もの間戦場にいた証である、血の臭いが。

攘夷戦争に参加していたならするはずだ。

感覚でしかわからない、血の臭いが。


……珠姫が、元攘夷志士じゃねェとしても。

そうじゃないとしても、昔剣を握ってたに違いねェ。

例えば、攘夷戦争じゃない戦争や戦いに参加してたとか。


考え事をしている間にも、試験は進んでいく。

珠姫の動きが早くて、防御だけで精一杯だ。

攻撃なんてする暇がねェ。


こりゃァ味方に入れた方が得ってモンですかねィ。



「珠姫……真剣でも勝負は、初めてじゃねェ、だろィ?」

『さぁ?わから、へん!』

「わかんねェって、どういうことでィ!」

『わからへんもんは、わからへんの!』



さっきから何度も剣が交じり合っている。

三回に一回ずつくらい、スピードが増してきてやがる。

それに加えて、少しずつだけど重くもなってきてる。


コイツ、珠姫は……。



今の珠姫と、互角に戦える奴なんているのだろうか。

それに珠姫には、たぶん……。

たぶん、今の何倍も何十倍も、力が秘められているだろう。


普通にしていれば、その力が解放されることはまずねェ。

この強さは、きっと真選組に必要な力だ。

だけど高杉や桂や攘夷志士のところに行けば……、間違いなく江戸はおしめェだ。




彼女が内に秘めている力。

一歩間違えれば悪いように利用されちまうような、物凄ェ力だ。






(2009.07.23)


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