君の中へ堕ちてゆく

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なかなか決着が着かへんのも当たり前で。

あたしは、力の半分も出てへんかった。

出してないんやなくて、ただ出てへんかっただけ。


けどたぶん、沖田くんも実力の半分も出してないと思う。

だって、真選組で一番強い人やで?

そんな人がこんなとこで、本気なんか出すわけがない。


たかが入隊試験や。

本気出す程のモンでもないやろ。


でもま、とりあえず、あたしはこの試験に受からんといけへん。

沖田くんから、一本取らんといけへん。


――キィィィィイン


そんな音がして、また剣と剣が交わる。

だから、あたしはそれを利用することにした。


まず、あたしが持ってる剣で、沖田くんの剣を振り払う。

そしたら飛び上がって、沖田くんの剣に乗る。

最後にあたしが持ってる剣の峰を、沖田くんの首元に持っていく。



『一本』



沖田くんにしか聞こえへんような声で、あたしは言った。


周りからは、早ェ、とか、今の見えたか?なんて声が聞こえる。



「珠姫、お前ェやっぱり……」



そこまで言って、沖田くんは言葉を呑み込んだ。

真剣な目で、あたしの目を捉える沖田くん。



『ほえ?』



緊張が解けたからか、あたしは間抜けな声を出してもた。



「いや、なんでもねェ」

『……?』



言おうとした言葉の続きが気になった。

けど、敢えて訊かんとこうと思った。


だって、やっぱり言わんとこうて思ったから、言うのやめたんやろ?

……たぶん。


言葉を紡ぐのをやめた真意はわからへん。

けど、なにかしら理由があるから、やめたんやと思う。

もしかしたら言うのはマズイ、と思ったんかもしれへん。

なら尚更、訊くんはやめた方がいい。


周りからの早いだなんだ言う声は、まだ聞こえる。

沖田くんの剣からおりて、周りを見渡してみる。

みんな唖然としてたり、早いだなんだ言ってる。


そう言えばこの剣、あの人のやったなぁ、ってことを思い出して、あたしはその人のもとに歩み寄る。



『剣、おおきにです』

「あぁ。お前、一体……」

『疾風珠姫です。なにもんでもないですよ。純粋な京の人間です』


あたしはその人――名前なんて言うてたかな?ひ、ひじ?土方?まぁいいや――に剣を返して、沖田くんのとこに戻る。



「珠姫」

『ん?』

「さっき、なにしたんでィ?」

『剣振り払って、剣の上乗って、』



軽く実演しながら説明をする。

沖田くんは、真剣にあたしの言葉に耳を傾けてる。



『持ってた剣の峰を、沖田くんの首元に持ってっただけやで』



あたしがそう言うと、沖田くんは驚いた顔を見せた。

けどすぐにもとの表情に戻った。


なんか呟いたような気がした。

けど、聞こえへんかったし気にしーひん。


呟きってのは、独り言とおんなしやしね。うん。



「入隊、おめでとーごぜェまさァ」

『おおきに』



さっきまで早いだなんだ言うてた隊士?たちは、気づけばもうなんも言ってへんかった。


で、何故か綺麗に並んでる。

なんで綺麗に並んでるんかは、さっぱりわからへん。

検討すらつかへん。



「珠姫」

『ん?』

「……なんでもねェでさァ」

『……そっか』



呼んだだけって風でもなかった。


なんとなく、ただなんとなく、なんやけど。

沖田くんは、あたしになんか言おうとしてたように思う。

ホンマになんとなくでしかないんやけど。



「行きやしょう」

『うんっ』



沖田くんと一緒に、その隊士たちに近づいていった。


そしたら、ぎょーさん言われた。

入隊おめでとうとか、真選組にようこそとか。


あたしは歓迎されて、晴れて真選組隊士になった。

そう、真選組の隊士に。


憧れてたわけでも、入りたいと思ってたわけでもない。

なんつーか……なりゆき?

うん、まぁそんな感じかもしれへん。


全員の言葉を聞き終わったら、いっせいにバラバラになる。

建物の中に入っていく人もおる。

その場で喋ってる人もおる。

一人、煙草を吸ってる人もおる。

今日は宴会だなんだ言って騒いでる人らもおる。



今日からあたしは、真選組の隊士。

京におった頃のあたしとは違う。

あたしは解放されたんや。

あの嫌な奴らから。


やっと手に入れた自由。

やっと、やっとのことで手に入れた自由や。


真選組隊士ってことは、攘夷志士とか斬らんとあかんのやろう。

辛いこととか、哀しいこととか、苦しいこととか……あたしが思ってる以上に、めっちゃくちゃ沢山あると思う。

それでもあたしは、この自由を楽しみたい。

友達いっぱい作って、さ。

非番の日には遊びに行ったり、カラオケ行ったり、ね?


隊士のみんなといっぱい話もしたい。

大好きな小説とか詩とか、歌詞とかも書きたい。

やりたいことが、沢山ある。




freedom――つまり、自由。

あたしは、ずっとずっと前からそれを、自由を求めてた。






(2009.07.23)


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