君の中へ堕ちてゆく

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名前を呼ばれて総悟を振り返った。

目に入ってきたんは、むっちゃ真剣な顔した総悟。


思わず、拳を握り締めた。

痛くなるくらい、強く。



「単刀直入に、訊きやすぜ?」

『う、ん』



総悟から視線が離せへん。

真剣な目が、あたしを捉えて逃そうとはしぃひん。


更に強く、拳を握った。

爪が手のひらにくい込んで痛い。


病室内に物音は何一つなくて、あたしと総悟の息遣いが聞こえるくらい。



「珠姫は、過去に一体何があったんですかィ?」

『……ッ』



一番、訊かれたくないことを総悟は言った。

どうやらあたしは、望まんかったことをせんといけへんみたい。



「ザーマス星人と戦ってて、剣術は強ェし、背中に傷があって京が嫌いで」



目を逸らしたくなった。

けどそれは、総悟の目が許してはくれへんかった。



「どれも繋がんねェんでさァ。もう少しで繋がるってェのに」



総悟は続けて言った。


あたしは、過去を話すと、今決めた。

ゆっくり目を閉じて俯いて、ちっちゃく深呼吸した。

目を開くと、総悟の目を見据えた。

握ってる拳を一回緩めてから、またぎゅっと拳を握った。


頭の中で決めてたことを一回だけ唱えて、あたしは口を開いた。



『……二年くらい前、京ででっかい戦いがあったんは、知ってるよな?』

「知ってまさァ」

『その戦いが起こったきっかけとなったんが、あたし、疾風珠姫』

「珠姫が……?」



自分で言って、思い出して、傷が開いた気がした。

心になんか突き刺さるような感じがして、痛かった。

胸の奥がきゅぅって締め付けられて、苦しくて。



『戦いが始まるちょいと前に、あたしは女の身ながら剣術道場に通いだした』



記憶の糸を辿る。

そう、確か、あれは夏の終わり頃のこと。



『ただ護られるのが嫌で、あたしの身はあたしで護るって決めて』



護られてばっかりっていうのが、あたしは気に食わへんかった。

だから、道場に行きたいって、両親に告げた。



『道場に通い始めて一ヶ月くらい経った頃かな』



つまりは、九月の終わり頃。

だんだん道場にも慣れてきた頃。



『ザーマス星人に操られた人が、あたしに襲い掛かってきた』



ものすんごいびっくりした。

だってまさか、あたしなんかに襲い掛かってくるなんて、そんなこと思いもせーへんかった。


総悟は、あたしの言うことが驚きの連続みたい。

言葉を失ってるように見える。


やけどあたしは話し続ける。

あたしも、胸の奥が締め付けられて痛いけど。


病室の静寂さが、訳もなくあたしを哀しい気持ちにさせた。




癒えぬ傷跡は、きっとたぶん、いつになっても残ったまま……。






(2009.07.23)


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