君の中へ堕ちてゆく

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二年前の京での戦いのきっかけが珠姫だったなんて、まだ信じらんねェ。


こんなにも明るくて、可愛くて、人懐っこくて、いつも笑顔で、歌が上手くて。

そんな珠姫が戦いのきっかけ?

んなことあるわけがねェ。



『その人は全く知らん人やったんやけど、襲いかかってきたから、あたしは斬った』



珠姫の眉間に皺が寄る。


さっきからずっと、拳は握られている。

固く、固く。

手のひらから、血が出てんじゃねェかって思うくらいに。



『もちろん初めは攻撃しようとは思ってへんかった』



この珠姫が、初めから攻撃しようと思うなんてあり得ねェ。

これには納得出来た。



『なんとかして操ってんのとけへんかなって、戦わんでいい方法探してた』



珠姫は話をしながら、時々俺から目を逸らして目を伏せたり、瞼を閉じたりしていた。

でもまた、俺の目をその真剣な目で捉えて。



『けど結局見つからんくてさ、嫌やったけど斬った』



正当防衛ってことで、罪にはならんかったけど。

そう、珠姫は続けた。



「珠姫、」

『……ん?』

「すまねェ」



なんだか謝らなきゃいけねェような気がして、珠姫に謝った。


珠姫はいつもの笑顔で……。

いや、あの笑顔はいつもの笑顔じゃねェ。

無理して作った笑顔で、ええよ、と言った。



『ほんで次にあたしを襲ってきたんは、あたしの親戚』



珠姫の顔が、さっき以上に辛そうなものになる。


身内やしホンマに斬りたくなかった。

そう言葉を紡いだ珠姫の声は、震えていた。



『親戚斬ったあとすぐに、両親が来た。操られてる目ぇしてたから、あたしは斬った』



今思えば、アレは操られてなかったかもしれん。

続きに言った言葉は、誰に言うでもなく、ただ呟いただけみたいだ。


俺は、話を止めたくなった。

今すぐ珠姫の手を取って、抱き寄せて。


だけど俺は、その衝動をぐっと堪えた。

過去を訊いたのは、俺だ。


そう、思った。



『したら今度はさ、お姉ちゃんが来た。そっからあのでっかい戦いになった』



今俺は、話を聞くことしか出来ねェ。

なんだかそれが、とても無力に思えた。


俺はなんにも出来やしねェんだ。

と、そう思わせた。



『お姉ちゃんがあたしに襲いかかってきてさ、まぁ無理もないよな』



あはは、と、辛そうに笑う珠姫。

笑顔を作る珠姫は、いつみても痛い。


俺まで、締め付けられているような感覚に陥る。



『周りには親戚や両親の死体があるし、あたしは血まみれやったし』



固く握り締められた拳が、震えていた。

いつ泣き崩れてしまうかが、心配で心配でならねェ。


――俺は、何度も心の中で謝った。

今にも泣き出しそうな珠姫に。


……俺まで、泣きそうになってくる。



『あたし側とお姉ちゃん側に勝手にわかれて、一年くらい戦ってた。あたしは合間を縫って今までのこと調べてみた。わかったことは、元凶はザーマス星人と両親やってこと、両親は偽者やったってこと。ザーマス星人に話を持ち出したのは、両親やってこと』

「珠姫の、両親が?」

『うん。あたし実は、結構裕福な家の娘でな、自分で言うのもアレやけど、色んな人から慕われててん。もちろんお姉ちゃんも』



俺の目から視線を外して、窓の外を見ながら珠姫は言った。

俺とは反対の方を向いている。


だから、どんな表情をしているかはわからねェ。

でもきっと、さっきと変わらねェ、今にも泣き出しそうな、そんな顔をしているだろう。




話された過去は、珠姫の過去は哀しすぎて……。

どんな言葉をかけたらいいのか、わからなくなった。






(2009.07.23)


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