君の中へ堕ちてゆく

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総悟の方見てたら、泣きたいって気持ちがどんどん込み上げてくる。

……ホンマに泣いてまいそうやった。


だから、あたしは窓の外に視線を移した。

外見てる方が、まだマシ。

まだ涙が込み上げてくるんがマシになる。



『けどなんでか、両親はあたしだけ気に入ってくれへんかった』



両親の顔が頭に浮かぶ。

思わず反射的に、頭を左右に振って画像を消す。



『あたしを気に食わんって言うて、お姉ちゃんばっか可愛がってさ』



何で気に食わんかったんかは知らんのやけど。

そう、あたしは続けて言った。


お姉ちゃんの顔が、次は頭に浮かんだ。

あたしの大好きな笑ってる顔のお姉ちゃん。



『それでザーマス星人と手ェ組んで、あたしを殺そうとした』



戦いの中で、本気で死にそうになったときのことを思い出す。

あの時は、ホンマに怖かった。


ただ恐怖だけが、あたしに襲い掛かってきて……。



『戦死した、ってことにしようとしてた』

「殺そうとって……」

『あたし一時期グレてたときあってさ、もしかしたらそれが原因かもしれへん』



窓の外向いたときに一回緩めた拳を、また固く握る。

手のひらに爪が食い込んで痛いくらい、ぎゅっと。


窓の外で、二・三羽の鳥が、仲良く飛んでった。



「珠姫、」

『ん?』

「辛く、ないですかィ……?」

『……大丈夫』



振り返って目に入ってきた総悟の辛そうな顔と、その言葉に驚いた。

大丈夫と笑顔を作って言うのに、ちょっとだけ間が空いてもた。



『まぁその計画は、真実を知ったお姉ちゃんによって壊されたけど。あたしが調べたこととか全部お姉ちゃんに話したら、お姉ちゃんは負けを認めてくれた』

「珠姫の姉さんは、今『生きてるよ。何処におるかはわからん』

「わかんねェって、家にいるんじゃ……?」

『んーん、お姉ちゃん、傷治ったらどっか行ってもーた』



今何処におるんやろう、なんて、何回そう思ったやろう。

あんなに優しかったお姉ちゃんは、今……。



『一応これで戦いは終わったんやけどさ、真実はお姉ちゃんしか知らんねん。せやし、京の人はあたしを、殺人犯や思て嫌って、冷たい目で見て』



お姉ちゃん以外の人に、真実を話そうと思った。

話そうとしたし、話してもみた。


けど、お姉ちゃん以外の人は、誰も信じてはくれへんかった。



『こんなことがあったから、あたしはお姉ちゃん以外の家族が大ッ嫌い。京が大ッ嫌い』



横断歩道を渡る、一組の家族を見つけた。

あたしは無意識に、バラバラになりませんようにと祈った。


家族を見ると、無意識にそう祈る癖がついてるみたい。



『あたし、ちょい厠行ってくるな』



ベッドからおりて、あたしは扉に向かって歩き出す。

ほんの数歩歩いたら、不意に腕引っ張られた。


気づけばあたしは総悟の腕の中。

前より強く抱きしめられてる。

あたしの力じゃ、どうも抜け出せそうにない。



「泣くなら、此処で泣いて下せェ」

『総、悟?』

「お願いしまさァ、珠姫……」

『……ッ』



総悟に言われるまま、あたしはその場で泣いた。

総悟の背中に手ェ回して、総悟の隊服ぎゅっと握って、総悟の胸板に顔をうずめて。

まだ何も知らん幼い子供みたいに、声をあげて。



「すまねェ珠姫。マジですまねェ」



そう言うて総悟は、あたしに何回も謝ってくれた。

総悟が謝る必要なんて、何処にもなかったんやけど。




もう、あたしは決めた。

アレを一週間後くらいに決行するってことを。






(2009.07.23)


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