君の中へ堕ちてゆく

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朝起きると、涙を流してた。

たぶん総悟の夢見てたからやと思う。


あたしは……むっちゃ、総悟のことが好き。



『総悟……』



10分くらい布団の中でボーっとしてた気がする。


ふすまの向こうから、珠姫、と呼ぶ総悟の声であたしは身を起こした。



「泣いてた、んですかィ?」

『へ……?』

「涙、」

『あ……』



総悟が、あたしの涙を指で拭ってくれた。

そんな総悟の優しさに、涙が溢れそうになる。


けど今ここで涙流したら……あたしには理由を答えられへん。

だから、必死で涙堪えた。



「珠姫、」

『ん?』

「珠姫……」

『そう、ご……?』



総悟が何を思ったかは、わからへん。

ぎゅっと抱きしめられて、名前を呼ばれた。


その声が、いつになく淋しそうで、辛そうで……。

あたしが出てくって、知ってるみたいやった。


いっつもはおっきい存在やった総悟が、今だけは、ちょっとちっさく見えた。




その日の夜1時頃。

あたしは、誰にも気づかれんように屯所を抜け出した。

必要最低限の荷物だけ持った。


書置きとかは、してへん。

ただ……カセットテープを一つ、置いてきた。


万事屋に向かう道中、あたしの頭の中には、真選組で過ごした楽しかった日々が、走馬灯のように流れてた。


何分歩いてたかはわからへん、気づけばあたしは万事屋の扉の前。

インターホンを押せば、すぐに銀ちゃんが出てきた。



「これが夜行列車のチケット、こっちは、宿の住所と部屋の情報」

『おおきに』



銀ちゃんからそれらを受け取って、あたしは報酬のお金を渡す。


貰ったお給料は、ほとんど手つかずのまま。

時々新しいノートとか買ったりするくらいやった。


報酬ってのも、どんくらいのモンかわからん。

せやし、列車のチケット代と手間賃プラス5万くらいを報酬にした。



「珠姫」

『ん?』

「駅まで送る」

『うん、おおきに』



銀ちゃんは、あたしをスクーターの後ろに乗せてくれた。

駅までは、結構すぐ着いた。


あたしも銀ちゃんも、駅までの間中会話なんてしぃひんかった。



『銀ちゃん』

「どうした?」

『話、ちょっとだけ聞いてくれる?』

「あァ」



あたしは、ホンマにちょっとだけやったけど、銀ちゃんに話をした。

真選組を、出る理由を。


銀ちゃんは黙って聞いててくれた。

話し終わって、おおきにってお礼言うたら、銀ちゃんはあたしのこと抱きしめてくれた。

総悟とは、また違う温もりがある。



『このことは、真選組のみんなには……特に総悟には、内緒にしとってな』

「あァ、わかってる」



ぽんぽんと優しく頭を撫でてくれた銀ちゃんに、あたしは涙が出てきた。


銀ちゃんは、列車が来るまでの間、ずっとあたしの頭撫でてくれた。

列車が来たらあたしは、お礼と別れの言葉だけを告げた。


振り返ったりは、しぃひんかった。

振り返ったら、出発出来んくなりそうで、怖くて……。




嫌いな言葉やから、言いたくなんてなかった。

あたしの“さよなら”は、もう一生会わへんことを意味するから――。






(2009.09.13)


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