君の中へ堕ちてゆく
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お姉ちゃんと再会してから、三日が経った。
昼間はお姉ちゃんは働いてるみたいで、家にはおらんかった。
その間にあたしは、小説を書いたり新しい曲作ったり、家の掃除をしたり。
することがなくなったら、リビングでボーっとしたりテレビつけてみたり。
無性に淋しくなったら、お姉ちゃんのベッドにダイヴして、あたしは大丈夫やって何回も言い聞かせた。
今日はなんとなく、天気もよかったから外に出てみた。
気晴らしにと思って、帽子とかかぶらずに、いつもの格好で。
「疾風」
『っ……!』
そしたら、運悪く副長とバッタリ。
逃げようと試みたけど、流石に無理やった。
これが男女の、戦ってきたか否かの、差。
「このことは誰にも言わねェ。だから、話だけ聞いてくれ」
『は、なし……?』
あたしと副長は、路地に入った。
近くに隊士はおらんけどもしもの為に、って、副長が。
この行動で、副長はあたしのことをホンマに誰にも言わへんのやって信じれた。
「総悟の奴、疾風がいなくなってから、寝る間を惜しんでまでお前を捜してんだ。非番の日だってお構いなしにな。疾風が来る前までなら、そんなことァ絶対にしなかった。いつもどっかでサボって寝てたんだ」
『……』
副長は、静かに話し出した。
あたしはただ、何も言わんと聞いてた。
必死で涙を堪えながら。
総悟がそんなにもあたしのこと捜してくれてるんやって思ったら、ホンマに申し訳なくて……。
「アイツ、毎日泣いてるみてェだぜ。あの“沖田総悟”が、だ。今まで総悟が泣いたのなんて、アイツの姉のミツバが死んだときくれェだ。つまり……総悟にとってお前は、“疾風珠姫”は、それだけ大切なんだ」
『総悟にとって、あたしが……』
初めて副長の目を真っ直ぐ見た気がする。
相変わらず瞳孔開き気味なその目は、真剣そのもので。
一瞬だけ涙が溢れそうになるのが止まって、その目に吸い込まれた。
『副長……なんで、あたしのこと、』
「総悟はたぶん、自分の力でお前を連れ戻すって思ってるはずだ。口にゃ出さねェが、見てりゃわかる。アイツがガキん頃から一緒だったからな」
ありがとうございます、とお礼を言えば、副長はただ何も言わずにその場を去っていった。
しばらくそこで副長の言った言葉を整理してから、あたしは歩き出した。
家に帰ると、既にお姉ちゃんが帰ってきてた。
お姉ちゃんのおかえりの声を聞いて顔を見た瞬間、プツンとあたしの中の張り詰めてた糸が切れて、涙を堪えれんくなった。
だからあたしはお姉ちゃんに抱きついて、泣いた。
「珠姫……」
『会いたい、総悟に会いたいよ……っ!』
お姉ちゃんはいつものように、ただぎゅっと抱きしめててくれた。
副長から、総悟のこと聞いたとき、めちゃくちゃ総悟に会いたくなった。
会って、ごめんって謝って、総悟の温もりを感じたくなった。