君の中へ堕ちてゆく

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「珠姫ーっ!どこにいるんでさァ、返事して下せェ!珠姫ーっ!」



どれだけ走って、どれだけ名前を呼んでみても珠姫が見つかることはなかった。

ただ気づけば、いつも屯所から遠いところまで走っていた。


そんな遠いところにもいないってことは、と俺は考えて、電車を使って更に遠くまで行ってみた。

帰れなかったらそれはそれでいい、どこかで宿を取って、次の日もまた珠姫を捜すから。



「珠姫!珠姫ーっ!」



ふと、俺の足がとある場所で自然と止まった。

そこはただの空き地。

だけどなんだか……ただの空き地のような気がしなくて、前にも一度、持ったことのあるような感覚がして。


俺はその場所に突っ立って、空き地をじっと見ていた。



「沖田、総悟っ!アンタ、沖田総悟くん、やんな?!」

「そうでさァ。アンタは?」



そうしたら急に、息を切らせた珠姫に似ている奴が、話しかけてきた。

珠姫のことを知ってるみたいでさァ。


そいつは少し息を整えてから、一言こう言った。



「珠姫を、助けて……っ!」

「珠姫を……?!どういうことでさァ!」



俺が訊けば、そいつは答えた。

慌てた様子だったが、ちゃんとわかるように。


そいつの名前は疾風桃華と言って珠姫の姉。

今日は仕事が休みだからと珠姫と買い物に行く為に外を歩いていたらしい。

そうしたら急に、ザーマス星人が現われて珠姫を連れ去って行った。

珠姫の姉さんは必死で追いかけて此処に辿り着いた。

そこには俺が空き地を見つめて突っ立っていた。


と、こんな感じだ。



「お前は……いつかの実験台ザマスな」

「「ザーマス星人ッ!」」



不意に空き地の方から声が聞こえて、そっちを見てみると、ザーマス星人がいた。

一人は脇に珠姫を抱えている。


今すぐに飛びかかって行きたい衝動を、俺は必死に抑える。

きっと今行っても、ザーマス星人は珠姫を人質にするだろうから。



「お前ェら、珠姫に何するつもりなんでィ!」

「何って、実験台以外に価値のある奴ザマスか?」

「てめェら……っ!」

「邪魔ザマスよ、さっさと消えるザマス」



ザーマス星人が空中で右手を左から右に払う仕草をすると、俺と珠姫の姉さんは吹き飛ばされた。

何をされたのかは、わからねェ。

一瞬の出来事だった。



「アイツら珠姫を実験台にするって……!総悟くん、何とかならへんの?!」

「何とか……」

「お願い、珠姫を……珠姫は、うちのたった一人の大切な家族やから……」

「……わかってまさァ。珠姫は、必ず俺が助け出す」



珠姫にとっても、珠姫の姉さんはたった一人の大切な家族だ。

珠姫の大切な人の願いを聞かねェ程、俺ァばかじゃねェ。




俺のこの命に代えても、珠姫は俺の手で助け出してみせる。

一人、心に誓った。






(2009.11.02)


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