君の中へ堕ちてゆく
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総悟と珠姫の姉・桃華は、少しだけ会話を交わしたあと、もう一度あの空き地へと足を運んだ。
すると、さっきまではそこになかった宇宙船が、空き地の真ん中を占領していた。
「何でィ、これは……」
「宇宙、船……?」
二人は吃驚して、ただ唖然とする他なかった。
その巨大さ、デザイン、色使い、バランス……全てにおいて滑稽すぎて、その滑稽さが逆にわからず驚くしか出来なかったのだ。
ガチャリと、音がして扉が開いた。
そこから出てきたのは、
「「珠姫っ!」」
「と、ザーマス星人もでさァ!」
だが珠姫は、いつもと様子が違う。
そう、まるで、あのときの総悟のような……。
操り人形と化してしまって、精神がない――つまり珠姫の体は、ただのイレモノにしかすぎない。
『沖田、総悟ハ、ドコニイル……?』
「珠姫!お前ェなら逃げれるだろィ!珠姫ーっ!」
『……見ツケタ』
ニヤりと、珠姫は笑った。
それはいつもの笑顔などではない、人を殺めることに快楽を求める下衆の笑顔……。
総悟も桃華もその笑顔に、恐怖を覚えた。
二人の背筋にゾクゾクと冷たい感覚がした次の瞬間、二人の視界に珠姫はいなかった。
『殺ス、沖田総悟ヲ、殺ス!』
「珠姫!」
間一髪のところで総悟は珠姫の攻撃をかわした。
腰の刀をすぐに抜くと同時に、また珠姫が物凄い勢いで襲いかかってきた。
二人の刀が交わると、珠姫はひたすら出鱈目に刀を打ち付けてくる。
一打一打が重い、と、総悟は思った。
「珠姫!俺でさァ!」
『殺ス……殺ス、殺ス!』
入隊試験のときなんか比べ物にならねェくらい、早くて重い……。
一体どうすれば、珠姫を助けられるんでィ?
珠姫はどうやって、俺を助けてくれた?
あのとき、俺が操られたとき。
……そうだ珠姫は、俺にキスをした。
もしかしたら、今回もその方法で。
「前回のようにはいかないザマスよ。今回の実験は完璧ザマス。そいつは、お前を殺すまでどんなにボロボロになろうと、戦い続けるザマス」
「くそ……っ!」
ザーマス星人は、総悟の考えを見抜いたかのように総悟に言葉を放った。
その言葉を、総悟は目の前の珠姫に集中しながらもしっかり聞いていた。
珠姫の顔には相変わらず……下衆の、笑顔。
「珠姫!目を覚まして下せェ!聞こえてるんだろィ!珠姫、珠姫ッ!」
『目ヲ、覚マス……?私ハ、沖田総悟ヲ、殺サナケレバナラナイ』
「殺すべき相手は俺じゃねェ!ザーマス星人だろィ!何言ってんでィ珠姫!」
『ザーマス星人ハ、従ウベキ味方。殺スベキハ沖田総悟、ノミ』
総悟が何を言っても、珠姫は聞かない。
いや、これはもう、珠姫ではない――。
精神(ココロ)の無くなった、ただの肉体(イレモノ)。
その空き地には、総悟の声――叫びが無情に響くだけ。
珠姫に“それ”は、届かない。