君の中へ堕ちてゆく

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珠姫の姉さんの歌が、終わった。


少しの間、珠姫は自分の意志で支配しようとする“何か”に抵抗していた。

だけどあっさりと、飲み込まれてしまった。


俺は一旦ステップバックで珠姫から離れて目を閉じて、深呼吸をする。



「すまねェ、珠姫」



呟いて目を開いて――感情を、捨てた。

心を無にして、珠姫に向かう。

珠姫を助ける為だと、感情を捨てる前に何度も言い聞かせた。


俺に向かってきた珠姫でなくなった珠姫と、剣を交える。

さっきと比べると、確実に動きが鈍っている。


余り珠姫に傷は付けたくなかった。

だから、一度だけ、珠姫の腹に剣を突き立てた。



頼むから、これで全て、終わってくれ……。



珠姫の腹から、剣を引き抜く。

それと同時に、血が大量に噴き出る。

たぶん、あのときの傷口が、開いたんでさァ。



『そ、うご……』

「珠姫、」

『おおきに、な……』



倒れてくる珠姫を抱きとめる。

珠姫は、笑っていた。


……珠姫なら大丈夫だ、死にゃしねェ。

今はただ、気絶しただけだ。


自分に、そう、言い聞かせた。



「本当にすまねェ珠姫、痛かったろ」



呟いて俺は、珠姫を横抱きにして珠姫の姉さんのところまで行く。

珠姫の姉さんに珠姫を預けると、俺はザーマス星人のもとへ。


ザーマス星人だけは、許せねェ。



「そんな体で、何をするつもりザマスか?」

「お前に我々は倒せないザマスよ」



剣を構えると、ザーマス星人が言う。

俺にはもう、死に際のただの戯言にしか聞こえねェ。

さっさと切り捨てて、粛正するだけだ。



「総悟くん気ぃつけて!そいつら、見かけによらず戦闘能力高いから!」

「あいつの言う通りザマス」

「さっきも言ったが、そんな体じゃ我々を「黙れ」



イライラする。

こんな奴らに俺たちは操られてたってーのか。


……虫唾が走る。



「俺を、誰だと思ってるんでィ?」



剣を体の右側に持っていき、刀身を下に向けた。

柄を強く握る。

足にぐっと力を入れる。


――総悟っ!

珠姫の声が、聞こえた。



「真選組一番隊隊長、沖田総悟だァァァァ!!!」



地面を蹴って剣を振るう。

肉を斬った感覚が、手に伝わってきた。

噴き出す血、天人が倒れる音。


これでやっと全てが終わったんだ。


珠姫の姉さんが救急車を呼んでいたみたいで、俺が珠姫の姉さんの元へ駆け寄ったときにちょうどそれが来た。

その箱に珠姫は乗せられて、珠姫の姉さんと俺も乗り込んだ。




終わったんだ、何もかも。

あとは珠姫の回復を祈って、待つだけ。






(2010.01.09)


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