君の中へ堕ちてゆく

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「君は何処へ行ったの?
行くあてもなく彷徨う私
心は何処にあるの?
目の前に心はもうないわ
失った?

私の中から愛が消えていった
手を伸ばしてみても
君には届かない
遠すぎる背中を
見つめるしか出来ない


毎日見る夢には
私に微笑む君が出てくる
隣に君はいなくて
伸ばした手が宙を漂う
失った

私の頬を涙が伝っていく
これで何度目だろう
数え切れない程
涙を流したわ
涙は止まらない」



あのときと同じ声……。


きれい、

でも歌詞は哀しくて。

きれいな歌声と哀しい歌詞が見事にマッチしてる。


あたし、こういうの、大好き。



「珠姫、」

『へ?』

「久しぶり、珠姫。覚えてる?」

『もしかして、さくら……?』



聞いたことのある声。

期間こそ短かったけど……毎日聞いてた声。

さくらの歌声、一回だけ、聴いたことある。


……なんであたし、気づかんかったんやろう。

あんなにも大好きやった声やのに。



「当たり!流石珠姫やね」

『さくら……』



懐かしい、むっちゃ、懐かしい。

あたし、今、さくらと話してるんや。

大好きやったさくらと、話、してるんや……。



「あんな、珠姫」

『ん?』

「もっと珠姫と話しときたいんは、山々なんやけど、」

『……うん』



目の前に、さくらが現れた。

実体化、て言うんやろか?

あのときのまんまの姿で、そこに立ってる。


懐かしいな……。



「目、覚まして。珠姫今、昏睡状態やろ?だから、目、覚まして」

『目を、覚ます……?』

「珠姫の大切な人が、待ってるから」

『大切な人、が、』



あたしの大切な人。

一番に思い浮かんだんは、総悟。

総悟の笑顔。

それからお姉ちゃんとか、真選組のみんなとか銀ちゃんとか……。



「珠姫には、大切な人がいっぱいおる。その人らを、悲しませんで」

『さくらは、さくらは?』

「うちは大丈夫。珠姫と桃華姉が覚えててくれるから、悲しくなんてないよ」

『そっ、か』



もっともっと、さくらと話しときたかった。

けどたぶんさくらは、それを望まへん。


これから先、一生会われへんと思うけど……さくらはもう故人やもん、会えんくて当たり前。

大丈夫てさくらが言うなら、大丈夫なんや。



「ほんまに、おおきにな、珠姫。大好きやで。桃華姉にもよろしくな。ほな早う、大切な人のとこ行ったって、みんな待ってるから」

『さくら?!さくら!さくらーっ!!』



すうっとさくらの体が透けていって、消えた。

いくら名前を呼んでみても、さくらが姿を現すことも、さくらの声が聞こえることはもうなかった。


ただ、あたしの頭の中には、さくらの言葉が何回もリピートされて離れへんかった。




聞こえた声は、歌声は、さくらの声やった。

懐かしい懐かしい、あたしの大好きな友達の声やった。






(2010.02.19)


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