君の中へ堕ちてゆく
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「……で一人………だ。……の……ら………ちも………ただろ」
微かにやけど、副長の声が聞こえた。
怒って、る?…………誰に?
すっと目を開ける――否、目が開いた。
そうしたら声が、はっきりと聞こえてきた。
「一人じゃ危ねェことくらい、お前ならわかったはずだ」
「わかってやしたよそれくらい。だけど珠姫は、」
「疾風をお前の手で助けたかったのはわかる。だがな、疾風も隊士の一人なんだ」
「……俺が一人でやらなきゃ、意味がなかったんでィ」
総悟に、怒ってる。
ごめんな総悟、あたしの所為で……。
総悟は何も悪うないのに、あたしが全部悪いのに。
せやのに。
『ふく、ちょ、う……』
「珠姫!」「疾風、」
『沖田隊長を……総悟を、怒らんで下さい。悪いのは全部、真選組を飛び出した、あたしです。せやから、総悟は何も悪うないんです』
総悟が、あたしの手をぎゅっと握ってくれる。
むっちゃ温かくって、安心出来た。
けど何となく……いつもより、ちょっと力が弱いような気がする。
やっぱりあたしの所為、やんな……。
「はぁ……。たく、お前ェら二人して全く同じこと言いやがって」
『元凶は、あたしです。あたしが、勝手に色々思いこんで、組を出てったりしたから、』
「……あーもーわーった、わーったよ。今回の件はなかったことにしといてやる。それでいいな?」
『副長……』「土方さん……」
副長はそれだけを言うと、病室から出て行った。
きっとあれが、副長なりの優しさなんやとあたしは思う。
室内に沈黙が漂う。
副長が出て行ったから、会話がなくなった。
「珠姫、」
『ん?』
「すまねェ」
『そう、ご……。あたしこそ、ごめんな』
ふわりと優しく総悟に抱きしめられた。
一瞬何がなんだかわからんくなったけど、すぐに理解出来た。
ほんまに総悟は、温かくって……。
「よかっ、た……っ」
『総悟……?』
「珠姫が死んじまわなくて、本当によかったでさァ……」
『心配かけてもて、ほんまにごめん』
珍しく、総悟が小さく見えた。
普段なら大きくてあたしを包み込んでくれる総悟が、今は全然違う。
あたしの為に涙なんて流してくれて、あたしをぎゅって抱きしめてくれてる。
ありがとうって呟いて、あたしは総悟のきれいな栗色の髪をそっと撫でた。
総悟が泣いてるのを見てたら、あたしまで涙が溢れてきた。
だから総悟にバレへんようにちょっとだけ、泣いた。