believe-心-

□06
2ページ/2ページ




あの場から、銀時をひっ掴んで走って路地まで来た。

ここまで走れば副長にも見つからないだろう。



「あの〜、すみませ〜ん、雛乃咲菜さんですよね〜?」

『そうだよ』

「なんでいきなり逃げたんだよ?」

『私は今、全部隠してるから』

「隠してる?」

『そう』



いつぶりだろうか。

普通に、一人の女として話すのは。

懐かしい。

あの頃が、とても懐かしい……。



『過去も名前も隠して生きてるの。だから、副長に、攘夷戦争後出会った人たちに、私のことがバレるとマズいの』

「隠すこたァねェじゃねェか。聞いた話によれば、高杉も咲菜を探してる」

『晋助が探してるとか銀時がいるとか、そんなの関係ない。私はまだ過去を隠して生きなきゃいけない。その時が来るまで』

「咲菜……」



久しぶりだ。

こうやって、銀時と話すのは。

みんな元気かな。


二人して黙って其処にいると、不意に私のお腹が鳴った。



『お腹空いた……』

「パフェでも食いに行くか?」

『銀時……今お金は?』

「ほとんどねェ」

『じゃやめておいた方がいいよ。覚えてるでしょ?私かなり食べるよ』

「そういやそうだったなァ……」



この空腹は今は我慢するしかない。

銀時に負担はかけられないし。



『銀時は今、なにやってる?』

「これ」

『万事屋銀ちゃん?』

「そ。まァ何でも屋だな」

『へェ』

「咲菜は真選組隊士、だよな」

『うん。そんじゃ私お腹減ったし帰るね。暇が出来たら遊びに行く』

「おう」



私は路地を抜ける。


もう少しああやって銀時と話していたかった。

けれど、お腹が減ってはしょうがない。


理由は言えない。

でも隠さなきゃいけない。

今はまだ、みんなにバレたら困る。

時期が早すぎる。

もっとあとにならないといけない。


久しぶりに喋った銀時は、何も変わっていなかった。

変わったといえば、万事屋を営んで、戦いの場からは身を引いていることだけだ。


きっと、攘夷時代の白夜叉は、銀時の中に眠ってる。


他のみんなはなにをしているのだろう。

銀時に訊けばわかるかな。




まだ、言えない。

言いたくない、言っちゃいけない。

過去も、本名も、私に関する全てを。






(2009.07.24)


次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ