believe-心-
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あの場から、銀時をひっ掴んで走って路地まで来た。
ここまで走れば副長にも見つからないだろう。
「あの〜、すみませ〜ん、雛乃咲菜さんですよね〜?」
『そうだよ』
「なんでいきなり逃げたんだよ?」
『私は今、全部隠してるから』
「隠してる?」
『そう』
いつぶりだろうか。
普通に、一人の女として話すのは。
懐かしい。
あの頃が、とても懐かしい……。
『過去も名前も隠して生きてるの。だから、副長に、攘夷戦争後出会った人たちに、私のことがバレるとマズいの』
「隠すこたァねェじゃねェか。聞いた話によれば、高杉も咲菜を探してる」
『晋助が探してるとか銀時がいるとか、そんなの関係ない。私はまだ過去を隠して生きなきゃいけない。その時が来るまで』
「咲菜……」
久しぶりだ。
こうやって、銀時と話すのは。
みんな元気かな。
二人して黙って其処にいると、不意に私のお腹が鳴った。
『お腹空いた……』
「パフェでも食いに行くか?」
『銀時……今お金は?』
「ほとんどねェ」
『じゃやめておいた方がいいよ。覚えてるでしょ?私かなり食べるよ』
「そういやそうだったなァ……」
この空腹は今は我慢するしかない。
銀時に負担はかけられないし。
『銀時は今、なにやってる?』
「これ」
『万事屋銀ちゃん?』
「そ。まァ何でも屋だな」
『へェ』
「咲菜は真選組隊士、だよな」
『うん。そんじゃ私お腹減ったし帰るね。暇が出来たら遊びに行く』
「おう」
私は路地を抜ける。
もう少しああやって銀時と話していたかった。
けれど、お腹が減ってはしょうがない。
理由は言えない。
でも隠さなきゃいけない。
今はまだ、みんなにバレたら困る。
時期が早すぎる。
もっとあとにならないといけない。
久しぶりに喋った銀時は、何も変わっていなかった。
変わったといえば、万事屋を営んで、戦いの場からは身を引いていることだけだ。
きっと、攘夷時代の白夜叉は、銀時の中に眠ってる。
他のみんなはなにをしているのだろう。
銀時に訊けばわかるかな。
まだ、言えない。
言いたくない、言っちゃいけない。
過去も、本名も、私に関する全てを。