believe-心-

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次の日。

俺はいつものように起きて、いつもと同じことをした。

灯の部屋に行ったとき、確かに灯はいた。

少しだったが会話もした。

飯を食ってるところも見た。


だが昼になって、灯の部屋に行った。

一緒に見廻りをしようと思って。

そうしたら其処に、灯の気配は……姿は、なかった。


屯所の中の全ての場所を見て回った。

屋根の上も、風呂場も、食堂も、便所も、道場も。



「近藤さん」

「どうした?トシ」



便所から出てきた近藤さんを見つけて、声をかけた。

もちろん、灯がいなくなったことを伝える為に。



「灯がいなくなった」

「灯ちゃんが?!」

「どうしたんでさァ?」



近藤さんに灯がいなくなったことを伝える。

と、近藤さんの後ろから声が聞こえた。



「灯がいなくなったんだ」

「本当の名前の最初の一文字……灯が?」



総悟にも伝えた。


……また“本当の名前の最初の一文字”だ。

だいぶ前だが、万事屋と会ったときも、万事屋は“本当の名前の最初の一文字”と言った。

一体“本当の名前の最初の一文字”とはなんなのだろうか……?


俺たちは、最小限の人数で灯を捜した。

街中の至る所の隅から隅まで、ひたすら必死に捜した。

だけど、日が暮れても灯が見つかることはなかった。


一旦俺らは屯所に戻った。

総悟や近藤さんは、また明日捜す、と言っていた。

だが俺は飯を食ったあと、一人でもう一度捜そうと思っていた。


七時半くらいのことだっただろうか。

俺らが飯を食っていると、食堂の扉が開いた。

誰かと思って扉の方に視線を向けてみる。

其処に立っていたのは、灯だった。


灯は、なにもなかったかのように、俺の隣に座る。

いつもと違うものを注文して。



「何処行ってたんだ?急にいなくなってよォ」

『……思い出の場所に行っていた。それだけだ』



俺は、それ以上なにも訊けなかった。

訊いてはいけないような気がした。


少しして運ばれてきた焼き飯の特特特盛り。

それを、いつもの如くサラッと食べて、灯は食堂を出ていった。




思い出の場所というのが、俺には何処かわからねェ。

けれど、何かを感じた。

君が過去を引きずっているような、そんな感じのものを。






(2009.07.24)


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