believe-心-

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局長の部屋の前で、私の足はピタリと歩くことをやめた。


中から聞こえてきた、局長と、副長の声。

聞いてはいけないことだったような、気がした。



「雛乃咲菜、という子の捜索願いが出された」

「雛乃咲菜?」

「この子なんだが……灯ちゃんに似てると思わないか?」

「似てるっちゃ似てるが……似た人なんざこの世界に何人もいるだろ」



もしかして副長、私のこと、隠して、かばってくれてる……?

そんな、どう、して……。


副長に、私を隠してかばう理由なんてどこにもない。

ただの上司と部下。

これといって特別なことはしてない。



「そうだな。で、どうする?全員動かすか?」

「いや、全員動かしゃ向こうも気づくだろ。俺、総悟、山崎と隊士数人でいい」



副長の言葉が終わったところで、部屋の中から何か物音が聞こえた。

もしかしたら副長が出てくるのかもしれないと、私は慌ててその場を去った。


私は、色んな気持ちを紛らわす為に食堂へ向かった。

だけどなんだか……食べる気がしなくて。



「どうした、灯。残ってんじゃねェか」

『食べれねェ。食べる気がしねェ』

「珍しいこともあるもんだな」



なんだろう、このもやもやした気持ちは。


……私、真選組を出たくないと、ずっと真選組にいたいと、思ってる。

どうして……?



『土方十四郎』

「なんだ?」

『今から注文するのか?』

「あァ、そうだが……」



だめだ、今日は疑問が多すぎる。

変なことまで考えてるし。


一口だけ、おつゆを飲んだ。


私が今日注文したのは、いつものサイズのラーメン。

食べられると思ったのだけれど、どうやら無理だったようだ。

いつもなら、食べれたのに。



『やる』

「は?」

『てめーにくれてやる、このラーメン』

「あ、あァ……サンキュ」



私の左側にいる副長の前に、器を押して移動させた。


目の前に何もなくなった机に、私は項垂れた。

机は、私の額がぶつかるとゴンッと音を立てた。


隣で椅子を引く音が聞こえて、ラーメンをすする音が聞こえた。


副長が何か言った気がしたけれど、私の耳には入ってこなかった。



その日の夜中。

私は銀時のもとへ行った。

夜中だったにも関わらず、銀時は快く家の中へ入れてくれた。



『どうしよう、銀時』

「何があったんだ?」

『私の捜索願いが、真選組にも届いたの』

「咲菜の、捜索願い?」



私は頷いて、銀時に銀時の知らないこと全てを話した。

まぁ銀時の知らないことなんてほとんどないわけなんだけど。


どうしよう、と私が呟くと、銀時は考えるようなそぶりを見せた。



「とりあえず今は、知らねェフリしとけ」

『知らない、フリ?』

「あァ。下手なことすりゃバレちまうかもしんねェだろ?」

『そう……だね。ありがとう、銀時』



万事屋を出るとき、銀時は私の頭をくしゃくしゃっと撫でてくれた。

昔はよくやってくれたなぁ、なんて、懐かしくなった。


もう一度銀時に、ありがとうと言うと、私は銀時に背を向けて歩き出した。




これから私は、どうしよう。

しばらくの間はバレないと思うけれど、バレた後だ。

バレた後、私の居場所はあるの……?






(2009.09.13)


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