believe-心-
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泣いてねェと灯は言い張るが、絶対ェに泣いてやがる。
今だってほら、微かにだが肩が震えてる。
涙こそ見てねェが、泣いていると証明出来ることならあるんだ。
「泣いてようが泣いてまいが、関係ねェ」
『だから、泣いてねェって』
「一人で全部抱え込むな」
『っ……』
やっぱり泣いてやがる。
声を殺してるが嗚咽が抑えきれてねェ。
隊士たちは灯と俺が抜けたことになんて気づかずに、酒飲んで騒いでらァ。
……気づいたのは俺だけ、か。
「全部吐き出せとも、少しだけでも吐き出せなんて言わねェ。お前ェが、灯が言いたくねェなら言わなくていい」
『…………』
「けどな、泣くくらェしろ。どれだけ男のように振る舞ったところで、灯は女だ。泣いたって誰も笑いやしねェよ」
『だから嫌だったんだ』
灯が呟いた言葉は、声が小さくて聞こえなかった。
ただ素直に泣いたことだけは、わかった。
珍しく灯の手が、俺の隊服を控えめに握った。
何があろうと灯は女だ、雛乃咲菜という、一人の女。
「……灯」
『………………』
「灯」
『…………』
酔いを冷ます為や厠の為に部屋を出た隊士に見つかるのはマズいと思い、灯を俺の部屋に連れてきた。
が、泣き止んでからは部屋の隅で体育座りをして膝に顔を埋めたまんま動かなくなった。
名前を呼んでも反応さえ示さねェ。
だからって、本名を呼ぶわけにもいかねェ。
俺は灯の本名を知らねェっつーことになっている。
「いい加減、返事しろ、灯」
『話しかけるな』
灯の元へ歩み寄って座り込んで、無理矢理膝から顔を上げさせる。
両手で頬を挟んで顔を背けられないようにした。
灯の頬には、涙の痕が残っている。
今まで本当に泣いていた証拠。
俺の腕の中で必死に声を押し殺してただ何かを思って泣いていた、証拠。
「女のままでいいじゃねェか」
『よかねェ』
「何でだよ?」
『色々あるんだ、俺にも』
灯の言う色々が何かは全くわからねェし知らねェ。
灯が話そうとしないから。
無理矢理話させる気にはならねェ、好きだから余計に。
灯は誕生日に、俺の腕の中で泣いた。
灯は誕生日に、俺に“女”を見せた。