believe-心-
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少しの沈黙のあと、俺が口を開いた。
「旦那、依頼があるんでさァ」
旦那も咲菜も何も言わなかったし目も合わせなかった。
ただ咲菜からは怯えているような、旦那からはもうわかっているというような雰囲気が読み取れた。
気のせい、かもしれないが。
隣で咲菜が右手を握り締めたのが見えた。
「咲菜を、匿ってやって下せェ。詳しいことは知らねェしすぐ見つかっちまうかもしれねェが、旦那しかいないんでさァ」
懐から薄い札束の入った封筒を取り出して、テーブルの上を滑らせて旦那の方へやる。
旦那はそれを手に取り、中を見ると俺の方へ投げつけた。
咲菜は驚いたのか旦那をじっと見つめている、眉を下げて。
「依頼なんざされなくても、わかってらァ。咲菜の母親が来たんだろ?」
こくりと頷く咲菜。
いつもは金金とうるさい旦那が依頼金を投げ返したのはそういうことだったのかと頭の隅で考えながら、旦那の言葉を待った。
が、旦那は何も言わず、代わりに咲菜が立ち上がった。
旦那の元へ行きしがみつくように抱きついた。
『銀時、私、怖いよ』
「大丈夫だ、俺がいる。沖田くんだっているだろ?」
『でも……』
「見つかっちまったら俺がなんとかする」
旦那も咲菜を抱きしめて、子供をあやすかのように咲菜を宥めた。
恋人というよりは、親子……いや兄妹という感じだ。
眉を下げたまま咲菜が心配そうに旦那を見上げると、旦那は咲菜の頭をくしゃりと撫でた。
『母さんが、屯所に、来たの、私を捜してた』
「あァ」
『どうして私を捜すの?あれは昔のことで、今はもう、』
「そう、だな……。今はもう関係ねェ」
何の話をしているのかはわからなかった。
だけどそれは咲菜にとってはとても重要で、重い過去のことなんだということはわかった。
旦那が咲菜をもう一度抱きしめると、咲菜は泣き出した。
俺には入れねェと感じて、そっと万事屋を出た。
旦那と咲菜には、強い強い絆がある。
まるで昔、共に戦場を駆け抜けた戦友のような……。