believe-心-

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すまなかったと灯の母親に謝罪をしてから、屯所を離れた。

灯に会う為だ。


だけど今俺は灯と会って、何を話せばいい?

過去を訊けばいいのか?

それともいつものように他愛もない話をすればいいのか?



『副長!あの人は、』

「事情を話したらわかってくれた。まぁ、最初は渋ってたけどな」

『そう。よかった……』

「簡単に引き下がるとは思えねェがな」



万事屋呟いた言葉は、声が小さすぎて聞き取れなかった。

きっと灯もそうだろう。


灯は今、俺の言葉に安心したのか俺の足元に座り込んでいる。

手を差し伸べるとぱっと顔を上げて俺を見た。


瞳孔が、開いてねェ。


そっと灯の手が重なったのを見て、ぎゅっとにぎると灯の手を軽く引っ張った。

すっと立ち上がる灯、見慣れた身長、黒髪。



「訊いても、いいか?灯の……雛乃咲菜の、過去を」

『、咲菜で、いい』



頷く灯……いや、咲菜。


ソファに並んで座ると、ぽつりぽつりと、咲菜は話し出した。

昔住んでいたところのこと、治安の悪さや住民の善悪や性格について、気候や育つ作物のこと。

家族のこと、家族構成や個々の性格、咲菜に対しての態度。


どれも“良い”とは言えないものばかりだった。



『だから私は、11のときに家を出た。もうあんな生活は嫌だったから』

「それで、攘夷戦争に加わったのか?」

『そう。だけど、……っ!』



急に手をぎゅっと握られた。

咲菜は俺の向こうを見ていた――そこには、咲菜の、母親。

握られた手からは、咲菜が震えていることが切に伝わってくる。



「咲菜!さぁ、行くわよ、咲菜」

『嫌だ!行かない!来ないで……来ないでよ!』



咲菜の母親の目は、正気じゃなかった。

まるで何かに、誰かに操られているかのような……。


俺は咄嗟に咲菜を後ろに隠して庇う。

万事屋が咲菜の元へ近寄って抱きしめたのを横目に見て、俺は咲菜の母親の懐に突っ込んだ。

腹に加減して腰の刀の柄の先を叩き込む。

少しの呻き声と共に咲菜の母親は気を失った。



やっぱり、何かある。

裏で何者かが何らかの意図を持って何かをしている……。






(2010.11.10)


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