この詩は誰のもとへ

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次の日、私と恋次は、ただ家の中で、ずっと喋ったりダラダラしたりして過ごしていた。

もちろん私は詩を書いたし、恋次は読んでくれた。


その日の夜のこと。

恋次がテレビをつけると、ちょうどニュースをしていた。

だから私たちは見ることにした。


アナウンサーの男性が“続いて次のニュースです”と言う。

続けて、次のニュースを読み始めた。



「どうしたんだ?七海」

『……うう、ん、なんでも、ない……』



アナウンサーの男性が言った“火事”という言葉に、私は反応してしまった。


テレビの画面が切り替わって、火事の現場の様子が映し出された。

その瞬間、私の頬を涙が伝った。


「七海?!」



私はテレビの画面から目が離せなくなった。

脳裏に、あのときの記憶が甦る。


友達の家から帰ると家が燃えていて……。

消防士の人に色々訊ねると、全員死んだと、言われて。

あの日、私はなにもかもが嫌になった。

全てを失ったような気がした。



「七海」

『れんっ、じ……っ』



私は、隣に座っている恋次に抱きつく。

とてもとても、怖くなって。



「どうしたんだ?なにがあったんだよ?一人で抱え込まねえで話してみろよ」



話した。恋次に、過去を。

火事で家族を喪ったことを。


恋次は、泣きながら話す私を、ただぎゅっと、ぎゅっと抱きしめて、話を聞いてくれた。


……思ってもみなかった。

恋次に、いや、一護以外の人に、過去を話すなんて。

一護以外の人に、心を許すなんて。


私はあの火事があって以来、火が怖くなった。

コンロやバーナーの火はもちろんのこと、ライターやマッチの、小さな小さな火さえ怖くて。

だから火事の直後は、料理なんて何一つ出来なかった。

冷凍食品とかそんなのばっかりだった。


もちろん恋次にはそのことも話した。

今はなんとか克服して、コンロの火までは大丈夫になったことも。



「七海……」



そう呟いた恋次の腕の力が、少し強くなったのを私は感じた。




消えない記憶。消せない記憶。

時々思い出すと、嫌になってくる。

あの記憶はきっと、いつまで経っても私の中にある。






(2009.07.19)


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