記念企画夢
□待っていた
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月明かりに照らされた桜の木の下に、唇を重ねる不たるのシルエットがあったのだ。
ただ静かに唇を重ねていて、まるでそれは絵のような光景だった。
……まぁこれは、私があとから想像したことなんだけど。
唇を離した晋助は、言った。
「真白、俺と一緒に来る気はねェか」
と、来いと言っているようにもとれるような声で。
私はすぐに答えた。
だって、答えは一つしかないから。
『ある。一緒に行く』
と、誰に咎められようと必ず行くという意思を示して。
私が答えると、晋助はまた私にキスをした。
晋助が私を連れてきてくれたのは、一隻の船。
その船の中の一つの部屋。
其処は晋助の部屋で、私は半ば強制的に晋助の部屋に入らされた。
嫌などではなかった。
寧ろ嬉しかった。
船に来て初めて入ったところだったから。
晋助は鬼兵隊というやつのリーダーで、集会みたいなでみんなが集まったときに、私にみんなを、みんなに私を紹介した。
鬼兵隊のみんなは、私を快く受け入れてくれた。
集会みたいなののあとは、晋助の部屋へ戻った。
これから私は、晋助の部屋で生活するみたいだ。
「真白」
『ん?』
隣の晋助に呼ばれて、晋助を振り返るとキスをされた。
夢の中で出来なかった分を埋めるかのように。
「待っていた」
『……うん』
唇が離れて晋助が言うと、私は晋助に身体を預けた。
晋助は私を強く、優しく抱きしめてくれた。
逃がしはしない。離しはしない。
とでも言うかのように。
『私もね、待ってた』
「あァ」
ずっとずっと、晋助と出逢える日を待っていた。
夢を見て晋助を好きになってしまったその日から、ずっと。
会えるとは思っていなかった。
会いたいという希望だけを持っていた。
会えると信じていたわけでは、なかった。
ただ、会いたい、会えたらいいなっていう淡い希望、淡い期待だけが私の中にあっただけ。
「真白」
きっとまたキスしてくれるんだろうな、と私は思った。
だから私は、晋助にキスをされる前に、私から晋助にキスをした。
なんとなく、そんな気分になったから。
晋助は驚いたような素振りもみせないで、私が唇を離したあとにまたキスをした。
今日一日で、何度晋助とキスを交わしただろうか。
これから晋助と歩んでいく道の上で、何度晋助とキスを交わすのだろうか。
……きっと、数え切れないくらい、私と晋助はキスを交わす。
互いに待って待たれてしていたから。
互いに会いたいと、キスを交わしたいと思った仲だから。
ただ会いたくて、ただキスがしたくて、私は晋助を待っていた。