記念企画夢

□鮮明に覚えてる
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波の音しか聞こえない、静かなデッキの上。

少し前から、私と晋助の間には沈黙が流れている。

重くもないし、苦痛でもない。

もう沈黙には慣れたのだ。


晋助との間に流れる沈黙は、安らぎにさえなりうる。



『ね、晋助、覚えてる?』

「なにをだ」

『あの日のこと。私たちが出逢った日のこと』

「あァ。当たり前ェだろ」



晋助の肩に、頭を預ける。


さっきと変わらぬまま、月は仄かに輝いていた。



『私、あのときすっごく嬉しかった』



気づけば、私は晋助の腕の中にいた。

晋助の腕の中から、晋助を見上げる。


不意に、キスをされた。

やっぱりさっきと変わらない味がした。



『晋助は、嬉しかった?私と出逢えて』

「んなことァ真白が一番知ってんだろ」



そうだね、と微かに笑って私は言う。


また、キスをされた。



「ただ、この腐った世界にも、」

『ん?』



晋助の腕の力が強くなった。

私の知らないことだと、直感的にわかった。


晋助はいつもこうだから。

私の知らないことを言うときは、力が強くなる。

抱きしめる腕も、キスも、全てが。



「真白に出逢えたことだけは感謝してらァ」



今度は私から、晋助にキスをした。

ただ私の唇を晋助の唇に押し当てて。


頬が赤いのを隠す為に、晋助にぎゅっと抱きつく。

何もなかったかのように、晋助は酒を飲む。



「真白」



呼ばれて反射的に顔をあげると、キスをされた。

きっと私の頬は、まだ赤い。



「飲まねェのか」

『飲む』



晋助が、酌をしてくれた。

私はそれを、一気に飲み干す。




あぁ、晋助と飲む月見酒はやっぱり一番美味しいな。

なんて、また思った。




――真白


晋助と出逢った日のことを、不意に思い出した。


そう、確か晋助は。

前日の夢の晋助のように、桜の木にもたれかかっていた。

私が名前を呼ぶと、キスをされた。


真白と呼ぶ晋助の声が、とても心地よかった。


初めて会った感覚がしなかった。

なんだか前から知っていて。

何度も会っていたような、そんな感じがした。




「愛してるぜ、真白」






(2009.05.28)


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