記念企画夢

□陰で見てる
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私、華紀真白には、毎日楽しみがある。

それは放課後だ。

放課後になれば部活が始まる。

だけど私は、部活には入っていない。


“部活をする”ことが楽しみなんじゃなくて、“部活を見る”ことが楽しみなのだ。

友達が部活をやっている姿を見るんじゃない。

好きな人が、部活をやっている姿を見るの。


長い時間見てるわけじゃなくって、その場所を横切るくらい。

ほんの少しの時間だけれど、彼を見ていたいの。

彼がロードワークをしているときは、時々すれ違ったりする。

いつも早いペースで走っていて、凄いなって思う。



「越前!相手してくんねーか?」

「いいっスよ」



今越前くんを呼んだのは、桃城先輩。

毎日ここを通っていたら、自然と顔と名前が一致するようになっていた。



『やっぱり越前くん、かっこいいなぁ』



なんて、私、毎日呟いているような気がする。

でも本当にかっこいいんだもん。


お話したいとか“華紀真白”って名前を覚えて欲しいとか、そう思ったりもする。

けれど私は、これでいいんだ。

今のままで十分なの。

私は越前くんを求めたりしない。


求めるだけ辛いって、わかってるってこともあるけれど……。

それ以上に、ただこうしているだけが幸せだってことがあるから。

“並の幸せ”を感じていたいだけ。

私の幸せが、世間一般に言う“並の幸せ”かどうかはわからないけれど。



『この幸せが、どうか越前くんの引退まで続きますよーに』



いつも私はこうして、夜に祈る。


お話が出来ればそれもとっても幸せなこと。

だけどこのまま、進歩なんてしなくてもいい。


もしかしたら私は、臆病なのかもしれない。

もし友達になれたとして、もし私が気持ちを伝えたとして、そして越前くんとの関係が壊れてしまうのが怖いのかもしれない。


あぁ、きっとそうなんだ。

一度関係を持ってしまえば、さらに求めてしまうんだと思う。

私はそれを恐れているんだ。


でも、それでいいのかもしれない。

そうして越前くんに迷惑をかけてしまうのも、自分が苦しむのも嫌だ。



『私は、大丈夫』



そう、私は大丈夫なんだ。

きっとずっとこのままでいられる。

越前くんと関係を持つなんて、一生ないはず。


今私はこれで幸せだから、これでいいんだよ。


誰も否定したりしない。

誰にも否定させたりしない。

誰も否定する権利なんてない。


そう、だよね?






(2009.08.22)


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