記念企画夢
□話しかけて
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その日は、テニス部はお休みだと聞いた。
というかそんな話を聞いた。
お休みなら練習は見れないしと思ったけれど、いつも通り図書館へ行って小一時間くらい読書をして、いつものルートで校門へ向かった。
「ねぇ」
校門を出たところで、後ろから声をかけられた。
聞き覚えのある声だったけれど、誰かまではわからなかった。
『え、越前くんっ?!』
私が振り返るとそこには、越前くんが立っていた。
突然越前くんに声をかけられたから、私の心臓はもう爆発寸前。
きっと顔真っ赤なんだろうなぁと思う。
「アンタ、毎日テニスコートの横通ってるでしょ?」
『う、うん』
「名前は?」
『華紀、真白……』
私の名前を知らなかったことに、ショックなんて受けなかった。
だって別に、越前くんが私の名前を知らないことなんて当然のことだし、知られたいとも思ってなかったから。
そう、並の幸せが続けば私はいいんだよ。
「華紀真白、ね。今から暇?」
『え、と、暇です』
「じゃあちょっと来て」
『へ……っ?!』
越前くんは、私の手首を掴むとそそくさと歩き出した。
私の頭は状況に全然ついていけていない。
とりあえず、越前くんについていけばいいのかなと思って、越前くんの成すがままに私は引っ張られていった。
辿り着いたのは、一つの家。
越前って表札に書いてあるから、越前くんの家……?
ってえぇぇえぇぇぇ?!
え、え、え、越前くんの、家っ?!
「ただいま」
『お、お邪魔、します……』
案内されたのは、越前くんの部屋。
ちょっと待っててと彼は言って、部屋を出て行った。
どうしよう、越前くんの家だなんて。
でも……この部屋、とっても落ち着く。
越前くんの、匂いがする……。
「……ろ、真白。ねぇ、真白」
『っ!はいっ!!』
「寝てたの?」
『寝て、た……?』
越前くんの匂いがするって思った辺りから、意識なんてほとんどなかった。
寝てた、のかな?
「完璧寝てたよね。眠いなら寝る?」
『あ、えっと、その……だ、大丈夫!落ち着くなぁって、思っただけ、だし』
ふーん、と返事をすると、越前くんは私の隣に座った。
私も越前くんも何も話さなくて、ただ沈黙が流れるだけだった。
落ち着く所為もあってか、なんだかとっても眠くて。
でも流石に、人の家で、しかも越前くんの家で寝るのはマズいと思って、必死で眠気と戦った。
「いつも、何見てるの?」
『何、って……?』
「テニスコート通るでしょ?」
『それは、その……練習を、みんな、かっこいいから……』
緊張して上手く話せない。
理由考えるのも一苦労だ。
だってまさか、越前くんを見てたなんて、言えないし。
そのあと私と越前くんは、しばらくの間話をしていた。
六時を過ぎた頃に越前くんの家をあとにした。
越前くんが、家まで送ってくれた。