君の中へ堕ちてゆく
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治療中の赤いランプがまだ消えない。
集中治療室前の廊下のベンチに、俺は一人で座っている。
ただただ珠姫の無事を祈りながら。
珠姫の姉さんは軽傷で済んで今は病室で寝ている。
安静にしておかねェといけねェらしい。
「珠姫……」
途中、治療室の中から看護師が一人出てきて、俺に告げた。
珠姫は今命の危機に曝されていると。
最悪の場合、死に至る程だと。
助かる見込みはと問えば、これからの経過にもよるが今のところはほとんどないと言われた。
だが100%ないわけではないとフォローしてくれた。
俺は、少なくてもある希望に賭ける。
「……さん、沖田さん」
「ん……」
しばらく寝ていなかった所為か、気づかねェうちに眠ってしまっていたらしい。
医者に名前を呼ばれて、目覚めた。
どうやら数時間は眠っていたみたいだ。
治療中のランプが消えている。
医者の顔を見ると、いい表情ではなかった。
悪くもねェが……どちらかと言えば、悪い方だ。
「疾風さんですが……」
「死、んだ、のか?」
驚くくらいきれいに言葉が出てきた。
何の躊躇いも感情もないままに発せられたその言葉は、自分でもわかる程無機質で、冷たかった。
赤の他人のことのように。
「いえ……。ただ、意識が」
「戻らねェんだな?」
「はい。治療中に少し意識を戻し、沖田さんに“好き。大好き”と伝えてくれと言っていました」
「そのあとまた意識を失った、と?」
頷く医者。
俺は今この状況についていけているのかどうか、わからねェ。
言葉は出てくるが、それは全部無機質で冷たくて。
珠姫が心配なのに心配じゃないような感じで……。
「今後、疾風さんが目覚めるかどうかは彼女次第です」
「そうですかィ……」
それだけ言うと医者は、俺に一礼をして去っていった。
珠姫は看護師たちによって病室に移された。
前と同じ部屋。
空いていた隣の部屋は、珠姫の姉さんがいる。
しばらくそこで何も考えられずにいると、看護師に大丈夫だと声をかけられた。
その声で俺の思考回路が動き出し、その場を離れ珠姫の元へと行った。
「起きて下せェ、珠姫」
呟いた、珠姫の手をぎゅっと握って。
「珠姫が笑ってくれねェと、俺、」
泣いた、自然と涙が溢れてくるから。
「……、珠姫、」
キスをした、珠姫が好きで、死んで欲しくなくて。
何日も何日も俺は珠姫の傍にいた。
傍にいて、目覚めるように願った。
医者には一ヶ月経っても目覚めなかったらもう二度と目覚めないかもしれないと言われた。
眠るときは、珠姫の手をぎゅっと握って一緒に眠った。
だけど珠姫は……三週間経っても、目覚めなかった。