君の中へ堕ちてゆく

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嗚呼……またあたし、ずっと眠りっ放しや。


起きたい、目を覚ましたい。

総悟とかお姉ちゃんとかともっともっと話したい。


だから、目覚めたい――ううん、目覚めんとあかん。



『ん……』

「、珠姫?」



瞼が上がると、一番に心配そうな顔の総悟が視界に入ってきた。

情けないくらいに、総悟の顔は歪んでる。


……あたしが、こんな顔、させてんね、よな。



『ごめん、なさい』

「珠姫?」

『ごめ、な、さ……っ』

「どうしたんでィ、珠姫?」



涙が溢れてきた。


総悟にこんなに心配かけて、こんなに苦労させて、こんなに酷い顔させて……あたしってほんまに、馬鹿や。

好きやから、大好きやからそんな思いさせたくないしそんな顔もして欲しくない。

ずっと笑顔でおって欲しい、のに。


せやのにあたしは、毎回毎回無茶ばっかして総悟に迷惑とか心配とかかけて。



「泣かないで下せェ、珠姫。ただ、ただいまって言って笑ってくれたら、それでいいから」

『そ、うご、』

「珠姫に泣き顔は似合わないでさァ。笑顔の方が可愛いですぜ?」

『……っ』



両手で涙を拭った。

深呼吸した。

目を瞑って心を落ち着けた。


大丈夫、総悟の為なら、あたしはどんなときも笑える。

笑顔になれる。



『ただいま、総悟』

「おかえりなせェ、珠姫」



精一杯笑顔を見せたら、総悟も精一杯の笑顔をあたしにくれた。

やっぱり総悟の笑顔って大好き。


総悟っ、て名前呼んだら、総悟はぎゅっと抱きしめてくれた。

心底あったかくて、あたしは生きてるんやって、総悟と一緒におるんやってことを実感出来た。



『総悟、』

「何でィ?」

『あたし何で、病院に?』

「覚えて、ねェのか?」



総悟の言葉にあたしは頷く。


何で病院におるんか、何で怪我してんのか、さっぱりわからん。

目覚める前に何があったのかさえわからんくて。


しばらくの沈黙のあと、総悟はあたしに眠るように言った。

何があるんかはわからんけど、あたしは総悟の言葉に従って大人しく寝ることにした。

すぐに、眠気が襲ってきた。



明けて次の日、あたしは全てを思い出した。


総悟からはあたしが三週間と三日も眠ってたことを聞いた。

医者とか看護師に言われたこととかも。



『おおきにな総悟』

「俺ァ何もしてやせんぜ?」

『んーん、総悟のおかげ』

「まぁ珠姫がそう言うんなら」



その日はお姉ちゃんと三人で、日がな一日あたしの病室で話をした。

色んなこと話せて、楽しかった。




あたし……もう二度と、総悟にあんな顔させたない。

ずっと、笑顔でおって欲しい、あたしの大好きな笑顔で。






(2010.03.16)


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