脱色
□君の全てが愛おしくなるとき
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俺は真白を、つい見てしまう。
この気持ちはなにか、わかっているつもりだ。
授業中とか休憩時間とか、移動中とか、とにかく真白が俺と同じ部屋にいたり、近くにいたりすれば自然と目が真白の方へと行ってしまう。
それに、真白のことを考えてぼーっとしている時間も増えた気がする。
部屋に一人でいるときなんて、ほとんど真白のことで頭がいっぱいだ。
最近ぼーっとしすぎだと、みんなに言われた。
真白のことを考えて過ごしていると、あっという間に放課後が来た。
「真白」
『あ、一護。どうしたの?』
俺より少し後ろの席の真白に話しかける。
真白とは、幼馴染みとか恋人とかじゃなくて、普通の友達。
高校に入ってから出来たただの友達だ。
俺の想い人ではあるけれど。
名前で呼び合っているのは、ただ真白が苗字で呼ばれるのと、苗字で呼ぶのが嫌いだと言うから。
だから真白のことは、みんな名前とかあだ名で呼ぶし、真白もみんなのことを、名前とかあだ名で呼ぶ。
「一緒に、帰らねえか?」
『いいよ』
今日真白を誘ったのは、ただの気まぐれにしかすぎねえ。
別に好きだから誘ったとかじゃなくて、単に真白と帰るのもいいかと思ったから。
俺らはまだ少し五月蝿い教室を出て、玄関へ向かう。
『一護ってさ』
「あ?」
『ルキアが好きなの?姫が好きなの?』
学校を出ると、真白が訊いてきた。
「どっちも好きじゃねーよ。つか好きな人いるし」
『ふーん。誰?たつき?』
「言えるわけねえだろ」
お前だなんて。
まぁ言ってもいいんだけどよ、雰囲気ってあるんじゃねえか。
「真白はいるのか?」
『いるよ。知りたい?』
「まぁな」
『んー……今度ね』
話しながら歩いていると、俺の家が見えてきた。
そろそろ真白と別れなきゃなんねえみたいだ。
『ねぇ一護。ずっと気になってたんだけどさ』
「なんだ?」
『あの“クロサキ医院”って一護の家?』
「おう、そうだけど」
俺の返事を聞くと、真白は何にどう納得したのか、一人でへぇ〜と何度も頷いている。
『じゃあ隣だね、家。クロサキ医院の右の家が私の家なの』
「そうだったのか」
真白は、ここでお別れだねと言うと、その場に突っ立ったままの俺を気にせず歩き出した。
「真白!」
『ん?』
「……いや、なんでもねえ。またな」
『また明日』
俺は、告白しかけてやめた。
なんかまだ早いような気がして。
もう少し真白と友達でいてから告白しても、遅くはないような気がして。
真白は特別可愛いとか美人だとか、そんなんじゃねえ。
普通の女だ。
ただ、人より気が利いて優しくて、しっかりしている。
だけど少し抜けている。
そんなところが俺は好きだ。
もちろん可愛いと思う。
今日で、真白と話したのは何度目になるだろう。
真白とはまだ、あんまり話したことがねえと思う。
これからもっと、話せるようになるだろうか。