どうしよう……。
あたしの頭の中には、その5文字がずっと浮かんでる。
あたしが今いるところは、よくわからへんところ。
「あー、めんどくせー」
そこにしゃがんで俯いた。
どれくらいの時間、そこにおったかはわからへん。
しばらくして聞こえてきた音。
めんどくさそうにそう言う声と、足音。
あたしは直感的にやばいと思って、隠れようとした。
けど遅くて、右手に雑誌の束持った、銀髪の男の人が現れた。
右手に持ってる雑誌は、週刊少年ジャンプと書かれてる。
「大丈夫か?」
銀髪の男の人は、あたしに気がついたみたいで、あたしを見下ろして、あたしに問いかける。
あたしは返事をせずに、銀髪の男の人を見上げる。
ジャンプをゴミ置き場みたいな所に、銀髪の男の人は置く。
通り過ぎて行くと、あたしは思った。
思ったけど、違うかった。
銀髪の男の人は、あたしの前にしゃがみ込む。
「おーい、大丈夫かー?」
その声と共に、手が伸びてくる。
伸ばされた手は、俯くあたしの頬に触れようとした。
あたしはその手に反応する。
なんかされるんやないか、って思って、怖くて。
「俺ァなんもしねーよ」
初めて聞いた声と同じ声で、銀髪の男の人は言う。
「大丈夫なのか大丈夫じゃねーのか、訊いてるだけだ」
恐る恐る、銀髪の男の人を見る。
ちょうど目が合った。
死んだ魚のような目をしているのに、真剣な目に見える。
『大、丈夫……』
あたしは消え入りそうな声で言う。
「……大丈夫そうには見えねェがなァ。何があった?」
『…………』
黙ったまま銀髪の男の人の目を見ていた。
あたしは、その真剣な目に飲み込まれるかと思った。
『殺されそうに、なった。5人くらいの男に囲まれて、拳銃で……』
思い出しながら言う。
恐怖までもが思い出されて、体が震えたのがわかった。
「そうか……。こんなとこいたらまた狙われるかもしれねェ。行くぞ」
銀髪の男はそう言いながら立ち上がる。
あたしに、手を差し伸べてくれた。
『う、ん……』
あたしは差し伸べてくれた手を取る。
何故か、この人なら信じれると、思った。
「お前、名前は?」
『茜。燈夜李、茜……』
「茜か、いい名じゃねーか」
銀髪の男の人は、“坂田銀時”と名乗った。
何でも屋の“万事屋銀ちゃん”というものを経営していると、そうも言っていた。
銀髪の男の人が連れてきてくれたところは、万事屋銀ちゃんのお店。
戸を開けて中に入って、中にもう一個あった戸の向こう側には一人の男の子と一人の女の子と、一匹の犬がいた。
「やっと帰って……って銀さん、その子は……?」
「燈夜李茜。そこにうずくまってたから拾ってきた」
銀髪の男の人はそう言う。
あたしにしか聞こえへんように、自己紹介をしろ、とも。
その言葉のあとに、後ろにおるあたしを引っ張り出す。
『あのえっと……燈夜李、茜、です……』
怖くて思わず声が小さなる。
「私神楽言うネ。仲良くするヨロシ。こっちは定春アル。可愛いでしょ?」
「僕は志村新八。よろしくね、茜ちゃん」
チャイナ服を着た女の子と、眼鏡をかけた男の子が順番に言う。
神楽と名乗った女の子の隣の犬も、紹介してくれた。
それにしても、定春という犬はおっきい。
『よ、よろしくお願いします……』
深く頭下げる。
下げすぎたようにも思う。
『……これは?』
あたしがどんな顔してたんかはわからへん。
その場に立ったままおったら神楽ちゃんが、箱を出してきた。
「酢昆布ネ。茜にあげるヨ。友達の証アル!」
『おおきに』
神楽ちゃんから酢昆布を受け取る。
ちゃんと笑えてたと思う。
銀髪の男の人は、いつの間にかデスクの椅子に座ってた。
温かい。ここは凄い温かい。
こんなに温かいものがあるなんて、初めて知った。
ずっと、ここにおりたい……。
初めて、温もりっていうものを知った。
冷めきった精神(こころ)が、癒されていく――。