My happiness, your happiness

□02
2ページ/2ページ




デスクの椅子に座っていたら、茜が歩み寄ってきた。

右手には酢昆布の箱。

さっき神楽が茜に渡していたから、それだろ。



『あの、坂田、さん……?』



すぐに覚えた違和感。

それは、名前だ。

“坂田さん”なんて聞き慣れねェ。



「銀時」

『へ……?』



キョトンとした顔で、俺を見る茜。

単語で言ってもわからねェか。



「銀時って呼べ」

『け、けど……』

「いいから」

『……わかり、ました』



新八とは違う敬語。


癖になってる敬語じゃない。

茜の敬語は、恐怖や苦手意識からくる敬語だ。



「人が苦手なのか?」

『人は……怖い。すっごい、怖い、です……』



茜の目が、恐怖に染まった。

目を見てるだけで、茜がどれくらい人が怖いかがわかる。


人が怖い、か。

確かに人は怖ェよな。

そいつの意思次第で、善人にも悪人にもなれんだから。



『あ、そんで、その……』

「なんだ?」

『あたし、これから「ここに住みゃいいじゃねーか」

『ここに……?』



これからどうすればいいか、を訊いてくると思った。

だから茜の言葉を遮って言った。


俺の言葉に、茜は驚いたような顔をする。

まァ、驚くのも無理ねェか。



「銀ちゃんの言う通りネ。ここに住むアル!」



話を聞いていたのか……いや、聞こえてたのか、神楽が参戦。

……ん?参戦?参加か?

まァ、どーでもいいか。



『せやけど……』

「いいじゃねェか。行く宛てねーんだろ?」



茜は、こくりと頷く。

きっと茜は、何処に行っても同じ目に遭うだけだ。


目を見ればわかる。

茜の目は、今まで何度も殺されそうになったりしている目だ。



「だったら、此処に住むこと。プラスバイト」

『え、あ、はい、わかりました……』



戸惑いを隠しきれていない。

元々、隠してないのかもしれないけれど。



「それと、その敬語。やめろ」

『えっと、う、うん……』



タメ口は慣れてねェんだろうか。

今までずっと、敬語で過ごしてきたのだろうか。


話がまだあるのか、茜はデスクの前に立ってる。

神楽は定春にエサやってる。

……相変わらず、定春はよく食べるもんだなァ。


新八は……アレ?新八がいねェ。

ま、新八ならどっかでなんか、地味なことでもやってるだろ。

“どっかでなんか地味でもやってるだろ”ってなんだよそれ!

なんて声が聞こえたような気がした。

だけど、全く気にしねェ。

空耳だろ、空耳。



恐怖やトラウマってのァ……。

必ず、過去になにかがあったから、今出る症状だ。

過去に何もなかったのに、何かがトラウマになったりはしねェ。


今の茜じゃァ、過去を訊いても答えてはくれねェだろ。

茜が人に、俺らに慣れてくれるまで待つしかねェ。




horror.恐怖。

それは、誰かに植え付けられた、どす黒い種のこと。






(2009.07.23)


次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ