あたしが銀時に拾われてから、三週間が過ぎた。
だんだん夏に近づいてきて、暑くなってきた。
暑いって言うても、ジメジメして、やけど。
晴れてる日はカラッとして暑い。
晴れようが雨降ろうが暑いから、イライラしてくる。
「茜〜」
『なに?』
ちょっとずつやったけど名前で呼ぶことにも、名前で呼ばれることにも慣れてきた。
もちろん万事屋におることや、万事屋のみんなにも。
あの日以来、総悟が時々やけど、万事屋に遊びに来るようになった。
仕事サボって、みたいやけど。
「俺が拾う前、どんな生活してたんだ?」
『昔……?』
「あァ」
『……忘れた。ぜーんぶ忘れた。あ、だからって気にせんといて』
全然大丈夫やから。
そう、あたしは言う。
……大丈夫なんかや、ないんやけど。
嘘や。
忘れたなんて、大きな嘘や。
けど、話したところで同情されるだけ。
そんなんされたない。
『覚えてるといえば、そやなぁ……』
全部嘘にするのは、たぶんあかん。
っていうか、あたしが嫌になる。
『家族とかおらんくて孤児やった、ってことくらいかな』
銀時は黙ってもた。
同情してるんやったら、やめて欲しい。
例えあたしが言うたことが、嘘やったとしても。
「なァ茜。俺ァ茜のその言葉が嘘だとしても信じる」
銀時の目を見てみれば、死んだ魚をしてなかった。
出逢ってから、初めて見る真剣な目。
「だから、話せるようになったら話してくんねェか?」
いつになったっていいと、銀時は言う。
あたしは、戸惑った。
「茜が、俺らになら話せると思ったときでいい。俺ァその日まで待ち続けるから」
『……うん』
全てを見透かされてるような、そんな気分になった。
銀時には、隠し通せへん気がする。
いつか失ってしまうものならば、何を話したって無駄やとあたしは思う。
失ってもたら、それでおしまいや。
自分の中に残るのは、後悔と哀しみだけ。
あたしはそんな感情欲しくない。
だって、嫌やん。失うなんて。怖いやん。
あの感情は、二度と味わいたくない。
全てのモノは、いつか自分の中から消え去ってまう。
失ってまう。
“イツカウシナウ”ものならば、あたしはいらん。
I don't need.私は必要としない。
だって、いつか全て、失ってしまうもんやろ……?