船の外から銀時の声が聞こえてから、どれくらい時間が経ったやろう。
まだそんなには経ってない気がする。
あたしは部屋の片隅でひたすら祈り続ける。
銀時がこの部屋を見つけてくれるように。
高杉さんが、銀時が来るまでこの部屋に来ぉへんように。
目を瞑って、体育座りをして膝に顔を埋めていると、部屋の扉が開いた。
あたしはハッとして顔を上げる。
其処におったんは無情にも、銀時やのーて高杉さんやった。
「どうやら銀時が来たみてェだなァ」
『それが、どうしたんですか?』
高杉さんはククッと喉で笑った。
閉じられた扉の向こうからは、人が走る音とかが忙しなく聞こえる。
高杉さんがあたしの目の前まで来て、それでも更に近づいてくる。
「何してる、高杉」
勢いよく扉が開いた。
かと思うと、息を切らせた銀時が部屋に入ってきて、そう言った。
高杉さんがあたしから離れて立ち上がる。
だから、あたしも立ち上がった。
「ククッ、茜を助けてやったんだ。感謝しろよ?」
銀時の顔が、みるみるうちに強張っていくのがわかった。
それを見てか、高杉さんはあたしに、行けって言ってくれた。
『高杉さんには、感謝してます』
あたしは高杉さんに、すれ違ったときに言った。
何事もなかったかのように、銀時に駆け寄る。
銀時はあたしが近くに行くと、なんも言わずにぎゅっと手を握った。
そのまま、いつもよりちょっと早いペースで歩き出す。
しばらく歩いてると、急に空に浮き上がるような感覚がした。
銀時が走り出したから、あたしも一緒に走り出して、外に出てみる。
そしたらホンマに船が空に浮き上がってた。
「飛び降りるぞ、茜」
『へっ?!……あ、うん』
銀時に引き寄せられて、ぎゅっと抱きしめられた。
その直後、銀時は船から飛び降りた。
もちろん下は海。
「思いっ切り息吸うんだ。海に入ったら水面に出るまで、目ェ開けるんじゃねェぞ!」
『っ、わかった』
あたしは出せる限りの息を吐いて、思いっ切り息吸って……。
目を、ぎゅっと固く閉じた。
銀時も、あたしとおんなしことをした。
その数秒後。
ザバァァンって物凄い水の音と共に、あたしと銀時は水の中に落ちた。
これからあたしと銀時がどうなるかはわからへん。
もしかしたらこのまま溺れて死ぬかもしれへん。
意識失って誰かに助けられるかもしれへん。
上手く水面に上がってこれるかもしれへん。
あたしは……死ぬことだけは考えへん。
だって死ぬこと考えてたら、ホンマに死んでまうような気がして。
水面に浮かぶ未来のあたしと銀時が、生きてますように――。
あたしは、祈る。
ピンチのあとのピンチ。
こんなピンチ、初めてや。
そのピンチの結果が幸であるよう、あたしは願う。
必死に、ただひたすら。