海に飛び込むしか帰る道がなかった。
だから茜をしっかり抱きしめて、海に飛び込んだ。
生きて帰れるかなんて、そのときは気にしちゃいられなかった。
「大丈夫か?茜」
『う、ん、大丈、夫……』
なんとか無事に水面に上がってこれた。
だから茜を抱えたまま、陸まで泳ぐ。
沖田くんに茜を引き上げてもらった。
もちろん俺は、自力で陸に上がる。
『銀、時……っ?!』
服が濡れてるなんてことは気にしなかった。
ただ茜の手を握って、俺は歩き出す。
茜はそんな俺になにも言わず、ただ黙ってついてきてくれた。
しばらく歩いて万事屋に着いた。
まずはとにかく、茜も俺も着替えた。
流石に濡れた服のままじゃ風邪引いちまう。
『銀時、あたし……』
「すまねェ」
『銀時……?』
「マジすまねェ」
俺は、俺を見上げる茜を、ぎゅっと抱きしめた。
壊れるくらいに強く、強く。
「茜が出てくなんて思わなくてよ……高杉のこと、言わなかったんだ」
いつもの俺じゃ考えらんねェような声が出る。
そんだけ俺は、茜が心配だった。
「マジですまねェ。怖かっただろ?」
『銀時……。ええの、謝らんで。銀時は悪くない』
茜の声が、響く。
その声は、とても心地よくて。
『それに銀時、助けに来てくれたやん。あたし、めっちゃ嬉しかった』
さっきとは違う、安心しきったような声になる茜。
おおきにな、銀時。
と、茜は続けた。
茜は、抱きしめたことにも、腕の力の強さのことにも。
どっちにも触れずに、ただ腕を背中にまわしてくれた。
『なぁ銀時。自分を責めんでな』
不意に、茜が言葉を発する。
突然のその言葉に、少し俺は驚いた。
『自分を追い込まんでな。いつもの、あの銀時でおってな……』
「……あァ」
そう言う茜の声は、哀しそうな切ないような声でもあった。
だけど、どこか強さみたいなものを感じた。
俺と茜はしばらく、恋人でもねェのに抱きしめ合っていた。
茜の優しさに涙が一筋零れたことは、俺だけの秘密だ。
俺ァ……茜は変わった気がする。
初めて出逢ってから、まだそんなに日は経ってねェ。
一緒にいた時間も少ねェ。
けど、なんとなく変わったような気がする。
きっと茜は、もともとは明るくて優しくて、誰からも好かれるようなタイプだったに違いねェ。
だけどなにかがあって、今の茜に……人を怯えるようになっちまったんじゃねェのか。
と、俺ァそう思う。
優しさに触れた俺は、思ったんだ。
出来ることならば、本当の君を取り戻してやりてェと、心から。