沖田くんが万事屋に来たあの日から、数日が経った。
その日は曇天で、夜からは雨が降ると天気予報で言っていた。
そんな日の出来事。
『銀、時』
いつものようにジャンプを読んでいた。
そうしたら、茜が遠慮がちに俺の名前を呼んだ。
ジャンプから顔を上げる。
ソファの背もたれの向こうに、茜は立っていた。
それも、困ったような顔をして。
「どうした?」
『あの、さ。一つだけ、訊いてもいい?』
「あァ」
俺がソファから起き上がって、ジャンプをテーブルの上に置く。
茜は俺の左側に座った。
ソファに座ってから少しの間、茜は俯いたままだった。
『好きって、どーゆーモンなん?……likeじゃなくて、loveの方』
俯いたまま、茜は口を開いた。
好き、か……。
好きって、どういうモンなんだ?
「なんつーか……相手の声が聴ける、顔が見れるだけで幸せんなったり、会いてェとか声聴きてェとか思ったりすること、なんじゃねーの?」
“好き”なんて、どう言葉にしたらいいかわかんねェ。
形のない感情……ってヤツだし。
どういうものなのか、俺にもイマイチわからねェ。
そっか、と茜は言う。
少ししてから、おおきにな、と俺に礼を告げる。
礼を告げるとすぐにどっかに行っちまった。
「……茜?」
茜が行っちまった方に向かって、俺は呟く。
やっぱり茜、なんか変だ。
どっか元気ないっつーか、いつもの笑顔がねェ。
何があったか訊いてみても、なんでもねェって言われたし……。
俺はソファに寝転ぶ。
ジャンプの適当なページを開いて、顔の上に乗せた。
その状態で、色々考えを巡らせてみた。
だけど、何もわからなくて。
結局その日は、夕食のときしか茜を見ないまま、一日が終わった。
今夜はなにかあると、何故かふと思った。
だから和室には行かずに、ソファの上で寝てるフリをしていた。
そしたら聞こえた、物音。
そっとリビングの扉を開けると、玄関には茜。
「何処行くんだ?」
『ぎん、とき、』
振り返った茜は、酷く驚いた顔をしていた。
でもそれ以上に、哀しそうな顔をしていた。
すっげー辛そうな表情で俺を見上げてて……。
俺は見ていられなくて、思わず茜を抱きしめた。
『ごめん、銀時、あたし、』
「何処にも行くなっつったの、茜だろ?」
『……ごめ、ん』
「捨てるなって、ずっと傍にいてくれって、言ったの茜だろ?」
抱きしめてる茜の小さな肩が、震えていた。
ゆっくりと、茜が俺の背中に手を回したのがわかった。
『ごめん、なさい……っ』
背中に回した手で俺の服をぎゅっと握ると、茜は言った。
その手もその声も、震えていたように思う。
真実はきっと、何処かにある。
俺はそれを、ただ手探りで今探してる。