復活

□貴方はずるい人
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私今、ボスさんの部屋にいます。

何でかって?

そんなの知りません。

だってボスさんに呼ばれたんですから。


ボスさんは私を呼んだのにも関わらず、ただ一言ここにいろと言っただけ。

他はなんにも言わないのです。



「何でそんなところにいる」

『ボスがここにいろと言ったっきり何も用を言わないからです』

「ここにいろっつっただろ」

『ボスの前に立ってろって言ってんですか』



ギロリとその紅い目でボスさんに睨まれました。

怖くないので別にいいです。


ていうか、ずっと立っとくのは嫌です。足が疲れます。

それに私は隅っこに座っているのが好きなのです。


何かあるなら早く言って欲しいものですよ、ほんと。



「おいカス」

『私はカスという名前ではありません』



あーもう、ホントどうしましょう?

なんだか泣きたいです。


ただでさえ最近色んなことが立て続けに起こって、精神的にきてるのに。

それなのに頼る人がいないからって、泣いてない私は凄いと思いませんか?



「……真白」

『なんでしょうか』

「こっちへ来い」

『アイアイサー』



名前を呼ぶまでに間があったのは、私の気のせいでしょうか。

気のせいじゃないと思うのは、私だけでしょうか。


ボスさんに呼ばれて、私は仕方なくボスさんの前へ行きました。

ボスさんは相変わらずです。

いつものように、机に足をあげて組んでいます。



「泣け」

『……はい?』

「一回で聞け、カス」

『聞きました。ちゃんと聞きました。何故泣けと?』



ボスさんの言っている言葉の意味がわかりません。


確かに私は泣きたいです。

しかし今泣けばボスさんの迷惑になります。

それだけは嫌です、半殺しにされちゃいますので。


あと、その後ボスさんはきっとスクアーロに八つ当たりしに行きます。

なんだか可哀想なので。



「真白が泣きてぇと思ってんのは知ってんだ」

『ボ、ス……?』

「どーせ真白のことだ。頼る奴がいねぇと決め付けて泣くの我慢してんだろ」

『なんっ、で、』



ボスさんが急に椅子から立ち上がりました。

私何されるんだろう、と思っていたら、ボスさんが見えなくなりました。

訳がわからず、私はただ目から溢れる涙を止められずにいました。


不意に、ふわりと匂ってきた香水と、肌に感じた温もり。



「泣きたいだけ泣け」

『ボス、』



ボスさんに抱きしめられてるって気づいたのは、そう言ったボスさんの声が上から聞こえてきたときです。

この温もりはボスさんのなんだと思うと、余計に涙が出てきました。


……ボスさんはずるいです。


いつもいつも、私の心を根こそぎ奪っていくんですから。



「そんなになるまで溜め込んでんじゃねぇよ、カスが」



そう言うボスさんの声が聞こえました。


ボスさんの腕の中はとっても優しくて、安心出来ます。

男の人って、ボスさんって、こんなに大きかったんだと、思いました。



「おいカス、聞いてんのか」

『い゙っぐ、私の名前は、カスじゃ、あ゙りまぜん゙っ』

「……真白」

『聞いで、ま゙ずっ』



やっぱり名前を呼ぶまでに間があったのは、私の気のせいでしょうか。

気のせいじゃないと思うのは私だけでしょうか。


ボスさんの広くて大きな背中に手を回して、ぎゅっと服を握って私はびえびえ泣いていました。

そうしたらいきなり、ボスさんに引き剥がされました。

私何されるんだろう、と思ってボスさんを見上げました。



『んぅ……っ!?』



私に考えてる暇なんてありませんでした

気づけばもう既に、私の唇にボスさんの唇が重なっていたのです。

しかもなんか、いつの間にか、私の後頭部をボスさんは右手で支えてるし。



「泣きたくなったら来い」

『……泣きたくならなくても来ます』



紅い目で私の目を見据えるボスさん。

何されるのかと思えば、また優しいキスをされました。


見た目が不良みたいでこんなにも怖い、人をカス呼ばわりして見下すボスさんからは想像出来ないような、とっても優しいキス。


ボスのばかと呟けば、ボスさんに聞こえたみたいで、鳴けと言われました。

丁重にお断りしました。

もう一度、ボスのばかと呟けば、またもやボスさんに聞こえたみたいです。

ベッドにダイヴさせられました。



やっぱりボスさんはずるいと、改めて思いました。

だって、こんなにも私をおかしくさせるのですから。







(2009.09.09)


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