近土(近)中心短編

□目覚めた想い
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俺には気になる奴がいる。

それは道場へと俺を引き入れた張本人の近藤勲という男だ。
初めはお節介さが凄く気に入らなかった。何かと俺に世話を焼きたがり鬱陶しいったらない。

しかも俺より先に道場へと通っていた沖田総悟というガキに何かと目を付けられ体を痛め付けられる…と言っても俺もやり返すが。

そんなある日、外に出掛けた際に今だに俺に恨みを持つ奴らと出会い喧嘩をふっかけられた。
俺もその喧嘩を買い、体中痣だらけで帰って来た際…奴に泣かれてしまったのだ。丁寧に手当てを受けている最中の事だった。


「…何泣いてんだよ…?」

「……トシは大事な門弟だ。いや、もう俺にとっちゃあ家族や兄弟みてぇなもんだ…そんな奴が何かあったなんて悔しくてならねー」

「何言ってやがる、元はと言えば俺が蒔いた種なんだ。これ位の仕打ちされるのは当たり前だ」

「そりゃそうだが…でもやっぱ心配なんだよ」


そう言って俺の手当てを終えた後、涙を拭い優しい笑みを見せる。
そこからだ、近藤勲という男が気になり出したのは…。

それから、道場にも少しずつ門弟が集まり始め、あまり俺にお節介を焼く事もなくなった。だからそのお節介がなくなって精々したと思った。

…だが何となく心にポッカリと穴が空いたようで稽古にも何となく身が入らないでいる。
しかも新しく入って来た奴に付きっきりで稽古をつけてたり親し気に話ししたりしている姿を見ると心がモヤモヤしたりとおかしい。


「…ックソ!」


だから俺はそれを落ち着かせようと毎回我を忘れ竹刀を奮う。だけどちっとも気なんか晴れやしない…寧ろ、色々な事思い出したり考えたりしてしまう。

あの時の男の涙や屈託のない笑顔、自分以外に話す時の楽しげな表情…。

俺は可笑しくなってしまったのだろうか?


「どうしたら気持ちが晴れる…どうしたら…」


竹刀を奮っていた手を止め1人道場の床に大の字に倒れ、乱れた息を整える。


「トシ、お疲れさん!」

急に声を掛け笑顔で俺の顔を覗き込んでいる。


…太陽みたいだなと改めて思った。
そう思った途端、不思議と心のモヤモヤが一気に吹き飛んでしまった。

…認めたくねぇがこれはもしかして…と、俺は自分で感じてきた思いを当てはめていけばやはりそういう事かと納得していた。手当てしてくれた日の涙を見た時の小さな胸の痛み、その後の笑顔が今の男の笑顔と重なる。


「どうした?疲れてボーっとしているのか?」


心配気に俺に尋ね、隣りにどっかりと腰を下ろした。


「何でもねぇよ…」


俺は照れくささもあってかそのままゴロン横を向いた。自覚したら余計に見れない…だけどこうして一緒にいたい…ったく、出来れば気付きたくなかったのによ…。

複雑な気持ち…それが辛いとかではなく、暖かな気持ちなのだから余計に混乱し戸惑いを覚える
だが、これだけは言える。

近藤さんの笑顔をずっと見ていたいと…その為ならきっと命だって張れると…。


…あんたが好きだよ…
横にいる相手へ言葉に出せない思いを俺は心の中で呟いた。






終わり

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