近土(近)中心短編

□月光桜
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夜桜を見ようとトシに誘われ夕方早々に仕事を終わらせた俺は隊服から私服に着替えゆっくり屯所を出る。
恋人同士になって初めてのデートって言っても良いのかな?なんて1人ほくそ笑む。

トシは今日は休み。外で暇つぶしてそのまま良い場所を取っておくと言って朝以外ほぼ1日姿を見ていない。
先程トシから俺の携帯に連絡が入りデカくて立派な桜の木が見つかったとの事。

いつものぶっきらぼうな話し方であったがその声は弾んで聞こえた。トシも凄く楽しみにしてるんだと思ったら足取りも益々弾む。行き交う人達の目なんて気にも成らず気分が良いついでに俺は団子屋で幾つか団子を見繕って貰った。団子屋を出ると俺は小高い丘の大きな桜を目指す。
膝まである草村を掻き分けながらそろそろかなと思いふと見上げると大きな桜の木がこれ又大きく枝を伸ばすように沢山の薄ピンクの花を咲かせていた。

俺はあまりの見事さに少しの間言葉を失う。風が軽く吹き荒れ、漸く我に返ると俺は遠くに見えているトシの元へと足早に向かった。

トシの真ん前まで来ると又言葉を失う事になる。

月明かりが灯る中、はらはらと舞う桜の花びらがトシの黒髪と黒の着流しに凄くマッチしてて……

綺麗だなって思った…。


「いつまでボーっと突っ立ってんだ?」


煙草を口にくわえ込み呆けている俺を見てクスリと笑う。その笑顔も月明かりと桜の効果のせいだろうか…更に綺麗で妖艶さも窺えた。


「…あー、いや、その…すげェ綺麗だなって」

「っだろ?一本でこの花の量だもんなぁ…俺もアンタみてェに見惚れちまったよ」


そう言ってトシは寄りかかっている桜の木の幹に触れ今一度桜を見上げる。

いや…俺が綺麗って言ってるのはお前の事なんだよ。次第に鼓動はドクドクと早く波打つ。


トシ…お前は自分の今の姿が俺にどう映って見えてるのか意識しねェのか…?

あぁ、綺麗だ、トシ
桜以上にお前が…


「近藤さん…?」


俺は自然にトシの体を抱き締めていた


「桜見に来れて良かったよ…誘ってくれてありがとな、トシ」

「…アンタにそう言って貰えて何よりだ」


雲一つない空に満月に近い月明かりの桜の木の下、風が吹き舞い散るその花弁を俺らは眺めどちら共なく口付けを交わし合う。少し照れて口許緩め小さく微笑んで視線を外すトシに嬉しさと愛しさを感じ固く抱き締めた。

団子なんていらなかったかもな?だって桜があってトシが居さえすれば俺は満足なんだから…。


「お前が一番綺麗だよ…」


俺はトシの髪に付いてる桜の花びらを取りひらひらと風に乗せるとそれを目で追いながらそっと耳許で囁いた。





終わり

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