近土(近)中心短編

□菜の花の季節に
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今日はトシの誕生日だ。

こういう時だから休めと言ったが溜まっている書類があると言ってどうしても譲らず無茶だけはすんなよとだけ告げ巡回へ出た。

自分の時は休ませてもらったからトシの時にもと思ってたのにな…。頭の中でぶつぶつボヤキながら街中を見て回る。

うん、今日も平和だな!

天気も良いし今の気分はどっちかって言ったらもう散歩気分だ。俺は足を延ばし街外れまでとやって来る。
そしてある広い畑で足が止まった。


「すげー!菜の花がこんだけあると明るくて綺麗だなぁ…!」


俺は暫しの間、その菜の花に見惚れ眺めた。


「トシにも見せてあげてェなぁ…」


思わずそんな事を口走る。きっと暗い部屋に籠もって書類の整理に夢中になってるかもしれないと思ったらこういう季節の花で飾ってあげたいと思った。

流石に畑の中から摘んで帰るのは罪悪感がある為俺は土手にはみ出している物を2、3本手にすると足早に屯所へと戻った。

山崎に花瓶を出して貰うと軽く洗って水を入れ早速摘んで来た菜の花を差した。
勿論、延命剤を忘れずに入れて。


「どうだ?綺麗だろ?」


トシの部屋に入り仕事に夢中になっている本人に尋ねる。


「あ?何がだよ」


鬱陶しげに眉間にしわ寄せながら俺の方を向く。


「菜の花?」

「そっ、菜の花。綺麗で明るいだろ?トシの部屋って殺風景だしこういうもん有れば少しは部屋も明るくなるし何より心が和むだろうと思って」


俺は何処に飾ろうかとキョロキョロと見渡す。


「んーと…、机の上だと邪魔だろうし箪笥の上で良いよな?」


トシの返事を聞かず箪笥の上へと花瓶を置き1人うんうんと納得する。


「そう言やぁ、菜の花なんて久しぶりに見るな…」


「だろ?俺からの誕生日プレゼントだ。安くて悪ィがな?」


頬を掻き苦笑いしながら振り向こうとして此方を見て僅かに笑むトシが何時の間にか俺の隣りにいる事に気付く。


「んな事ねェよ、俺の事考えて摘んで来てくれて…その、嬉しいよ…」


照れた様子を隠すかのようにトシは菜の花に手を伸ばして触れる。




「誕生日おめでとう、トシ」

「サンキュ。…なぁ、近藤さん…」

「何だ?」

「やっぱり今日は休ませてもらうよ」

「へっ?書類は良いのか?」

「良いんだ、折角近藤さんがプレゼントしてくれた菜の花、思いっきり愛でたい気分になっちまってさ、書類どころじゃ無くなったからよ…」


そう言ってうっすら柔らかい笑み浮かべるトシの表情は俺の見た菜の花達を思わせるような優しい雰囲気を漂わせていた。






終わり

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