近土(近)中心短編

□一歩先の梅雨明け
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梅雨の時期に入って何週間か経つ。今日もシトシト外は雨が降っていた。
食事やトイレ以外は1日中部屋に籠もり書類仕事をこなしている土方。

梅雨と一緒で最近はずっと部屋に籠もりっ放しだったから雨続きの鬱陶しさもプラスされてイライラが募る。時々、近藤に気分転換を勧められるがそんな暇は無いからと断ってしまった。近藤に悪い事したなと思ったが早めに書類を終わらせて詫びに行こうと考え再び書類に没頭する。

漸く書類を書き終えた土方は確認印を押す為の印鑑を出そうと机の引き出しを開けた。目的の印鑑の隣りに3個の飴がある事に気付く。
不思議に思いながら印鑑と飴3個を手にし机の引き出しの戸を閉めた。
何時の間に入れてあったのだろうと土方は軽く首を傾げる。


「トシ、入るぞ?」


その呼び掛けにあぁと、了承の返事をすると近藤がにこやかな顔をして入って来た。


「ご苦労さん、珈琲淹れて来たんだけど飲むか?」

「サンキュ、頂くよ」


はいっと差し出された珈琲のカップを受け取り土方はゆっくり口を付ける。


「書類仕事は終わりそうか?」

そう尋ねながら土方の周りに綺麗に置いてある書類の一部を手に取って眺める。相変わらず丁寧で綺麗な書類に感心しつつもう片方の手に持っている自分の珈琲に口を付けた。


「あぁ、後は確認印を全部押したら終わりだ。ホント1日のデスクワークは肩が凝って仕方ねェ」


土方は珈琲のカップを机に置くと自分の肩を反対側の手で揉んだ後顔を近藤に向け一言珈琲ありがとなと礼を言って最後の仕上げとばかりに書類に印鑑を押し始めていった。


漸く印鑑を押し終え完全に書類仕事が完了したのは午前3時近く。土方は伸びをして懐から煙草を取り出し一服しようと姿勢を崩した。
そういえば近藤さんは出て行ったのかと振り返って見れば部屋の隅で寝ている近藤の姿があった。

自分に背を向けて寝ている辺り多分仕事の邪魔にならないようにしてくれてたに違いないと土方はそう察知しクスリと小さく笑みを漏らした。

土方は火を付けたばかりの煙草を灰皿へ置くと立ち上がりタオルケットを押し入れから出せば近藤の体へと掛けた。


「あれ、この飴…」

タオルケットを掛け終え立ち上がる寸前に気付いたのは近藤の懐から転げ落ちていた飴だった。自分の机から出て来た飴の包みと一緒なのを思い出した土方は再び笑みを漏らす。


「ありがとな、近藤さん」


土方はその場に座りポケットに入れた先程の飴を口の中へと転がした。あまり甘くないミントの味。近藤の気遣いと優しさがミックスされて書類仕事の疲れもふっ飛びそうだと思えた。

自分が幾ら苛ついて八つ当たりしてしまっても忙しいからと冷たくあしらってしまっても何時も大きく優しく包み込んでくれる近藤を思い出す。

その度に自分はこの人には適わないと感じてしまう。だからこの先もずっとこの人に付いて行こうと思えるのだ。
この人を護って行こうと思えるのだ。

近藤の寝顔を見つめつつ土方は幸せに浸る。



梅雨明けはもう少し先だと告げてた天気予報。




だが土方の心は一歩先に梅雨が明けて近藤の明るい笑顔のような太陽が照らしていた。





終わり


―――――
ちょっと話しの解説(笑)


土方さんの机の引き出しに何時近藤さんが飴を忍ばせたかと言いますと土方さんがトイレに行っている間か食事中です。

忙しく一服の煙草も吸えない様子の土方さんの事を思っての近藤さんの配慮だと思って頂ければと思います。
直で手渡ししたかったけど話し掛けてしまうと仕事の邪魔になる、だから邪魔にならないようにする為……と、まぁ、こんな所でしょうか。


あくまでも私がイメージする近藤さんですけどね(笑)


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