土新(銀新)中心短編
□卒業の時
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卒業式も最後のHRも無事終わり俺は一つの達成感を覚えた。
個性豊かでまとまりの無いクラスだったからかも知れないが…楽しかった…という気持ちがあった事も又事実だ。
もうこの教室にはアイツ等は戻って来ねぇ…
アイツの突っ込む声を聞く事も笑顔を見る事も無ぇんだな…?
誰もいない3Zの教室は当たり前だが信じられない程静かで余計寂しく感じられた。ぽっかり穴が空いたような気になる。
「子供を自立するまで育てた親の気分ってこんな感じなのか?」
ふと立ち止まったのは自分が想いを寄せてた生徒の席。
…新八…
最後の最後まで皆に突っ込んでたなぁと笑みが漏れた。教師だからとかつまらない理由で、せっかく告白してくれたお前の気持ちを突っぱねちまった…本当は焦がれる程好きだったのに…。
そっと新八の机に触れる。
この位置でこの席で新八は教壇の俺を見つめてくれてたんだよな?
教科書を読めと誰かに当てようとするたんびに目が合って小さく笑ってくれたのを鮮明に覚えている
俺に突っぱねられた後だって…。
律儀に挨拶にだって来て目が合った時の笑顔を残してアイツは去って行ってしまった。寂しそうな表情なんて微塵も見られなかった。
きっとあの時の俺へのアイツの想いは時間が消化してくれたんだろうと思いフッと悲しみにも取れる笑みが零れる。
「…何て弱ぇんだろな?」
反対にアイツへの想いを引きづってるんだ…どんだけだよ、どんだけ弱ぇんだよ…俺は…。
「…新八、好きだ…お前が告白してくれた前からずっと…」
「それ、本当ですか?」
突然掛けられた愛おしい声の主に俺は振り返った。それと同時に後ろから抱き締められた事に気付く。
「新八…」
俺が呟く声に新八の抱き締める手に力が籠もる。
「新八何で戻って来たんだ?」
「…先生に最後の挨拶をと思ってみんなが帰ってしまったのを見計らって…多分隠れナーバスな先生の事だからいるだろうと思ってね?」
「だだだ誰が隠れナーバスだ!」
そう言っていつもの口調で文句を言いながら振り返るとそこには優しくも切なそうに微笑む新八の顔があった。
その何とも知れない表情を俺は綺麗だなと思った。
「それで戻って来たら僕の机の近くにいた先生を見つけて先程の言葉を聞いてしまったんです…最後に先生に別れの言葉をきちんと言おうと思って来たのにどうしてくれるんですか?」
眼鏡の下の大きな黒の瞳からポロポロと涙が零れ落ちるのを見て俺は新八の眼鏡を外しそれを指で拭ってやった。
「…悪ィ…」
「そんな謝罪の言葉なんて僕は望みません、きちんと今の先生の気持ちを僕に言って下さい」
真っ直ぐな瞳と声に俺は身も心も捕らえられる。
俺は分かったと勘念し新八に眼鏡を掛け直させ次は自分の眼鏡を外す少し離れて向き合い、新八に負けない位真っ直ぐ見つめた。
「教師っつー壁なんて関係無く俺はお前が好きだ、今も現在進行形で…」
「……」
「欲を言えば、俺個人からお前を卒業なんてさせたくなんてねぇ…だからよ、もしまだお前の気持ちが俺に向いてるなら俺の手を取ってもらえるか?」
そう言って俺は眼鏡を掛け直し新八に手を伸ばす。
…バチンッ!
途端、小気味良い音が聞こえればそれは新八が俺の頬を叩いたんだと気付く。
そしてすぐに勢い良く抱きつかれた拍子に後ろへ倒れそうになるもそれは阻止した。
「僕を悩ませた仕返しに叩きました…安いもんじゃないですか?先生?」
痛そうな表情をした俺に顔を上げた新八は不適に悪戯に微笑む。
「後これは先生を沢山悩ませてしまったお詫びです」
真顔になったかと思えば新八の顔が近付き…夕日が差し込むこの空間…俺らの影が重なった。
終わり