土新(銀新)中心短編

□蛍と月明かりと貴方
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万事屋での仕事が久しぶりに入りそれを終えての帰り道。涼しい夜風に当たっていれば少し遠回りがしたくなり河原へとやって来た新八は草村で小さく光るモノを見つけて表情を明るくした。
何時の間にかその光りは新八の周りを飛び交い出す。
まるで幻想的で綺麗な光りに新八はうっとりと目を細めた。


「まだこんなに蛍っていたんだ…」


新八は土手へ腰を下ろすと蛍の灯火を見つめ続けた。


「誰だ?そこにいるのは…」


聞き慣れてる声に新八は後ろをそっと振り向いた。そこには片手に持っている提灯を此方へと向けくわえ煙草、隊服姿の土方が怪訝な表情で立っていた。

本人の後方には月明かりが優しく照らし黒髪を綺麗に映し出している。新八だと気付いた顔はびっくりしたような表情だったけど…少しして微笑んだ表情は自分にとって正に極上品だと思えた。


「どうしたんだ、こんな時間に…」

「仕事帰りです」

「でもお前の家こっちじゃねぇだろ」

「…少し涼んでこうと思って遠回りしたんです。そしたら見て下さい、蛍が沢山いて…」


新八が河原の方向へ目を向けると土方も同じように視線を向けた。ポワッとゆっくり舞う蛍に土方は暫し言葉を無くしそれを見つめる。


「それにしても江戸にこんなに蛍がいたなんて驚きだ」


そう呟きながら土方は自然に新八の隣りへと腰を下ろした。


「でしょ?僕もびっくりです…ってそれより土方さん仕事なんじゃ…」

「ちょうど終えて帰る所だったから大丈夫だ」


提灯の灯りは邪魔だとばかりに土方はそっと消し隣りの新八と目の前にいる蛍に気遣うようにくわえていた煙草を携帯用灰皿でもみ消した。そんな土方の様子を横目に見ていた新八は河原の草村近くに舞っていたらしい一匹の蛍が土方の手の甲に止まっている事に気が付いた。


「土方さん、手に蛍が…」

「蛍?」


新八の呼び掛けにふと自分の手の甲を見やった瞬間新八の掌へと蛍が移って来た。


「綺麗ですね?土方さん…」


蛍を掌に乗せたまま隣りの土方の方へと向けば意外と間近だった顔と視線に新八の体が固まった。
そして後頭部を押さえられ気付くと口付けされる。


「…悪い、何だか蛍でハシャぐお前が可愛くてよ…」

「土方さん…」


新八はどんな表情して土方と顔を合わせたら良いか分からず掌に止まっていた蛍を静かに舞わせた。

キスされた事は突然だったし驚いたがそれ以上に土方の綺麗な笑顔や照れたように笑う表情にどぎまぎさせられて…新八は俯く他出来なかった。



…僕達の後ろには月、目の前には沢山の蛍達、何より隣りにいるは優しく微笑む愛おしい貴方…



「贅沢だなぁ…」

「何が贅沢なんだ?」

「さぁ…」

新八は俯いたまま小さく土方の肩に頭を預け目を閉じる。
まるで2人だけの世界になったかのような幸せな風景に浸るように…



そんな新八の肩を土方は優しく抱き寄せた。






終わり

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