土新(銀新)中心短編
□今夜だけは…
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今日は僕の誕生日。
その日に土方さんが有給を取って僕の誕生日を祝ってくれるとの事だった。
けど仕事の立場上今までその通りに過ごせた事は片手で数える位しかなく期待は全くしていなかった。それでもそう言ってくれただけでも嬉しくて「待ってます」と言って頷いた。
待ち合わせ場所は家康像の噴水の近く。時間は午後5時。
だけど案の定予想通り土方さん本人から攘夷浪士達の動きがあったからとキャンセルの電話が入った。支度をし家を出る直前の事だった。
「仕方無いよね、何時もの事だし…予想の範囲内だったし」
1人夕飯を済ませ風呂へと浸かり着替えを済ませてお茶を啜りながらテレビのニュースを何気なく見つめる。
真選組の今日の活躍が放送されていた。数十人の攘夷浪士達が捕らえられ手柄が称えられていた。
「ご苦労様です。真選組の皆さん…土方さん」
僕は小さく呟くように言いながらテレビの電源を消し自分の部屋へと入った。布団を敷き中に入り寝る態勢になる。
明日のお盆は1日休み取ったから姉上と一緒に父上達の墓参りだなとかゆっくり家で過ごせるなとか予定を思い出す。
それは少しでも頭の中を楽しくしようとしてたのかもしれない。
本当は今日は土方さんに会いたかった。会えなくて寂しかった。自分の誕生日だから尚更…。
他の日は仕方無いってすんなり諦められてたけど今日は……。
「素直に泣いても良いよね?」
そう思ったらボロボロ涙が溢れて来だす。枕に涙の沁みが出来た。
「新八…」
部屋の外から聞こえて来た静かな声に僕はハッとする。
その声は今日会いたくて仕方無かった人…。
「土方さん…!」
僕は部屋を暗くしたまま窓を開けた。
「…遅い時間にすまねぇな、寝てたか?」
「いえ、起きてましたよ。土方さんこそご苦労様でした」
ちょうど月明かりでうっすらと土方さんの姿が見えた。隊服だからきっと仕事が終わってから直ぐに来てくれたのだろうと思った。
「12日少しオーバーしちまったが誕生日おめでとう」
こんなのしか無かったとコンビニで買ったらしいケーキを差し出される。
「ありがとうございます」
僕はそれを受け取り机の上に置いた。
「本当に今日は悪かった…」
「良いんですよ…こうして無事で来て祝いの言葉貰えるだけでも…贅沢なのに…」
「新八…?」
声が震える。僕は震えを抑えようと頑張るがそうしようと思う程声の震えは止まらない。
「…ごめ、んなさい…貴方を困らせるつもり無かったのに…」
涙が知らない内に再び流れていたらしく俯く僕の涙を土方さんはソッと拭ってくれた。
「すまねぇな、お前には色々気を遣わせちまった…だからよ、その分今夜は素直に色々吐いちまえ、何だって聞くぜ?特別な日なんだからよ…」
半ば強引に体を引き寄せられ僕は足を宙に浮かせたまま土方さんに抱き締められた。
「改めて誕生日おめでとう、新八」
これからも宜しくの言葉も添えられ僕は甘えるような仕草で土方さんの頭を抱き締め礼として綺麗な黒髪へ口付けた。
終わり