過去拍手文
□幽霊と一緒
〜幽霊に恋した男〜H
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幽霊と一緒
〜幽霊に恋した男〜H
「鴨太郎?ああ、俺の弟だ」
アパートへ帰宅してゆっくりしてた近藤さんへ昼間来たという弟について尋ねるとすんなり答えた。残して行った名刺も見せると立派になったんだなと笑みを浮かべる。
「それにしても似てない兄弟だな?」
「ははっ、当たり前さ、俺と鴨太郎は血の繋がった兄弟じゃねェもん」
これまた即興で答えると腰を下ろしテーブルの上に置かれた名刺を手にしもう一度それをまじまじと見つめた。
「鴨太郎はさ、元々私生児達が集まる施設にいてな?俺の叔父に当たる人がその経営者やっててよ。事情を知った俺の両親が身元引受人を買って俺の弟として来たんだ。まだ8歳だった…」
その時の事を良く覚えてると言って近藤さんはどこか懐かしむような表情で窓の外を見る。
手は今だ名刺を持ったまま…。
「本来のご両親が鴨太郎の弟ばかりを可愛がってたせいか随分スレてたな…笑わねェし怒りもしねェし泣きもしねェの。
ただ無表情で言われた事に対して答えてたやはり頑なに自分の誘いには乗らない日が続きそれでもめげずに誘い続けたある日、本人は気が進まない様子で外に出て遊んだと近藤さんは語る。
諦めない性格は昔と変わってなかったんだなと俺は僅かにほくそ笑んだ。
「まずは鴨太郎を笑わせてェ一心で色んな事教えたり体験させたりしてよ…無表情だったアイツが少しずつそれを和らげてってくれてるのが堪らなく嬉しかった…」
心から嬉しかったんだと思わせるような表情なのか近藤さんは目を細めて微笑む。
…だからか…あの先生があんな表情してたのは…。
打ち解けない相手の手をずっと近藤さんはソイツに差し延べてきっと笑顔向けて待ってたんだろう。何となく想像が出来た。
…何て単純で何て暖かい人なんだ…。
もし自分に近藤さんのような兄がいれば今日会ったあの先生のように大事にしてくれただろうか?
兄弟なんていない俺にはそういうのあまり想像できないけど。
「弟さん、アンタの事ばかり話してたよ。すげェ良い面して…」
…しかも笑ってたしな。
「そうか…俺がいなくても良い医者になってるんだろうな」
…いなくても…。
それを聞いて別れ際に聞いた先生の言葉を思い出す。
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