薄桜鬼の頂き物

□雨上がりの笑顔
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「千鶴ちゃん、これはどうだ?」


「あっ、それはあまり身が締まってないのでこっちの方が良いです」


「そうかー?食えりゃ一緒だと思うんだがな」



ある日の昼下がり。


屯所の食材も残り少なくなってきたので、町へと買い出しに来ていた。


とても1人じゃ持ちきれる量じゃないだろうからと、たまたま非番だった永倉さんが一緒に来てくれていて…


その荷物のほとんどを彼が持ってくれていた。


「すみません、永倉さん。荷物持ってもらっちゃって」


「全然構わねえよ!!美味しいご飯のためだからな」


ニッと笑ってそう言い、彼らしい台詞に私も思わず笑顔になった。


「お買い物、これで全部終わりですから、屯所へ戻りましょうか」


「ん?ああ…」


何故か永倉さんは言葉を濁し、挙動不審にちらちらとこちらを見ている。


な、なんだろう…?


疑問に思っていると、意を決した様に永倉さんは口を開いた。


「あ、あのよ、千鶴ちゃん」


「はい?」


「ちょっと…寄り道してかねえか?」


「え…」


思いもよらぬ言葉にどうしていいかとまどっていると、ぐいっと腕を掴まれる。


「わっ、あ、あの…永倉さん!?」


「いいからいいから、団子くらいなら奢るからよ、ほら行こうぜ」


「でもそれ、おつかいのお釣りですよね?」


「うっ…」


一瞬、顔をしかめたものの…

細かい事は気にすんな!!


そんな永倉さんに半ば強引に連れて来られたのは、街から少し離れた場所にある茶屋だった。


「ここな、巡察の帰りにたまに来るんだけど出来立ての団子がうめえんだよな」


「はいよ、お待ち」


外の席に腰を掛けて待っていると、人柄の良さそうなおばさんがお団子とお茶を運んで来てくれた。


「待ってましたー!!ありがとな、おばちゃん」


「ごゆっくり」


ぺこりとお辞儀をしておばさんが去った後、嬉しそうにお団子を手に取った永倉さんは、私にそれを差し出してきた。


「ほら、千鶴ちゃん」


「あ、ありがとうございます」


私が受け取るのをにこにこと笑いながら見ていた永倉さんは、残りのお団子をあっという間にたいらげてしまう。


「あーうめえ!!やっぱここの団子はうめえなあ」


そんな永倉さんの様子が微笑ましくて、くすくすと笑っていると彼は不思議そうに首を傾げている。


「ん?なんだ?なんで笑ってんだ?」


「いえ…なんでもありません。これ、頂きますね」


そう言ってお団子を一口頬張ると、程よい甘さとお餅の柔らかさが口の中に広がった。


「美味しい…」


「だろ?」


永倉さんは得意気にニカッと笑う。


「おばちゃん、おかわり頼むな!!」


「あいよ」


「な、永倉さんまだ食べるんですか?」


「おうよ。千鶴ちゃんも食うだろ?」


「いえ、私は…」


「遠慮しねえで食えって、な!!」


まるで私の言葉なんか聞こえていなかったかの様に、ずいっと運ばれてきたお団子を差し出されて。

更に笑顔を向けられたら其れを手に取るしかない。


…なんだか、永倉さんのペースに巻き込まれてしまっている気がしてならなかったんだけれど…



どうしてだろう



永倉さんといると、とても楽しい気持ちになる




最近、また気持ちが落ち込んでしまう事が多かったせいか…沈んでいた気分が少しだけ和らいだ気がした。








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