雪夢幻想曲

□暗黒の聖譚曲
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──いつから家族が"狂って"いたのか
それは恐らく、最初からだろう
兄は肉親は妹しか居ないと思い、父母は兄に両親だと名乗り出ない
妹はその二つの家庭で、自分に与えられた役を見事演じきっていた
兄と二人、互いに支え合いながら暮らし、その様子を父母に報告する
兄が仕事の間に、妹は両親と過ごした
滑稽な家庭ではあったが、"幸せ"を保つには、これが一番の方法だった
──この生活が、ずっと続くと思われていた
双子に産まれたこの兄妹が、愛し合ってしまうまでは

元々、二人の世界は閉鎖的だった
妹に友人は無く、互いに面識のある者は両親の仕事場である研究室の、それこそ両手で数えきれる程しか居ない
兄には同僚の友人は居たが、仕事場は異性と馴れ合えるような場所ではなかった
毎日が死と隣り合わせの戦場──その前線に立つソルジャー
色恋沙汰にはまるで無縁な場であった
兄には戦いの才能があったようで、瞬く合間にその名は世界中に轟く事になる
後に彼は"英雄"と讃えられ、皆に愛されるが、そんな事にも微塵も興味が湧かなかった
彼は、もうずっと以前から、妹だけを愛して、生きてきたからだ
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